2016年1月1日金曜日

FinTechにまつわる法律問題 ー ソーシャルレンディングはなぜ日本で広まらないのか?原因となる法規制について。

今話題のFinTechって?
ITを活用した新しい金融サービスを提供するFinTech(フィンテック)。
会計系FinTechスタートアップ(freee、マネーフォワード等)の大型資金調達、大手金融機関も取り組みを開始したこと等で、2015年も色々と話題になっていました。今年も引き続き、FinTechが2016年のスタートアップ・トレンドになると、多くのVCにより予想されています。

FinTechと一言で言っても、「ITを活用した新しい金融サービス」の中身としては、様々なサービスが考えられます。例えば、ソーシャルレンディング、決済関連ビジネス、資産運用関連ビジネス等です。そのうち今回はソーシャルレンディングについて、問題となる法規制について見ていきたいと思います。

ソーシャルレンディング(クラウドレンディング)とは?
お金を貸したい人(レンダー)と、お金を借りたい人・企業(ボロワー)とを結び付けるサービスです。レンダーにとっては、貸し倒れのリスクを負うかわりに高いリターンを得られる可能性があるという、新しい資産運用の手段となります。ボロワーにとっては、銀行からの融資を受けられないような場合に、消費者金融よりも低金利での融資を受けることが可能になります。

アメリカやイギリスでのソーシャルレンディング ー その仕組みは?
ソーシャルレンディングの発祥の地と言われるイギリスやアメリカでは、既に多くの企業がこの領域に参入し、事業を拡大しています。
例えば、アメリカで最大手と言われるLending Clubは2014年12月にNY証券取引所への上場を果たし、現在の時価総額は$4B(約4,800億円)を超えています。Lending Clubを通じて貸し付けられた金額は、総額$13B(約1.5兆円)を超えるとされています。

アメリカやイギリスにおいては、お金を貸したい人(レンダー)が、直接ボロワー又はLending Club等のプラットフォームに対して貸付債権を持つ(貸したお金を返せといえる権利がある)という仕組みになっています。

日本におけるソーシャルレンディングは?
日本においても複数社が参入していますが(maneo、AQUSH等)、アメリカやイギリスに比べると、かなり規模が小さいのが現状です(例えばmaneoにおいては、成立ローン総額は約380億円)。その理由の1つとして、以下のような法規制の問題があげられるのです。

貸金業法 ー 貸金業者の登録って?
日本の貸金業法においては、①金銭の貸付を②「業として」行う場合には、貸金業者の登録を行うことが必要とされています。
反復・継続して(すなわち繰り返し、一定期間続けて)行う意思をもっている場合には、②「業として」にあたると考えられています。
貸金業者として登録されるためには、以下を含む一定の要件を満たすことが必要となります。
・登録を受けようとする者(法人の場合は常勤の役員)に、貸付の業務に3年以上従事した経験者がいること。
・純資産額が5,000万円以上あること。
・営業所・事業所を設置し、固定電話を設定していること。

ソーシャルレンディングが「貸金業者」にあたるの?
ソーシャルレンディングにおいてレンダーとなり、資産運用したいと考える人は、一件の貸付だけではなく、複数のボロワーに対して複数の貸付を行いたいと考えるのが通常でしょう。そうすると、アメリカやイギリスのように、レンダーがボロワー又はプラットフォームに対して貸付債権を持つという仕組みにした場合、レンダーは①金銭の貸付を②「業として」行っていることとなり、貸金業者の登録が必要となってしまうのです。
上記のとおり、貸金業者の登録の要件はかなり厳しいものとなっており、資産運用したい個人が貸金業者の登録をするのは現実的には難しいといえます。

レンダーが「債権回収」を行うことも問題
さらに、日本法上、弁護士又は債権回収業者以外の者は、債権の回収(貸したお金の取立て)を業として行ってはならないとされています。よって、レンダーがボロワー又はプラットフォームに対して貸付債権を持ち、これを回収することも、違法とされてしまう可能性があるといえます。

日本においてソーシャルレンディングを行う方法はないの?
もっとも、日本においてもソーシャルレンディングを行う方法がないわけではありません。
例えば、maneoにおいては、以下の仕組みによってソーシャルレンディングを実現しています。
①maneoが貸金業者の登録をし、maneoからボロワ−に対して貸付。
②maneoは、複数のボロワ−に対する貸付債権でローンファンドを組成し、ローンファンドへの投資を募集。なお、ファンドの組成・投資の募集を行うために必要な金融商品取引業(第二種)の登録を行っている。
③レンダーは、②のローンファンドに対して出資(匿名組合契約に基づく出資)。

なお、②で必要となる金融商品取引業(第二種)の登録には、以下を含む要件を満たすことが必要とされています。
・会社の場合、資本金が1,000万円以上であること(個人の場合、1,000万円以上の営業保証金を供託すること)
・業務に関する十分な知識・経験を有する役員・従業員の確保、組織体制が整備されていること(例えば、営業部門とは独立して、十分な知識・経験を有するコンプライアンス部門・担当者の設置が必要)

日本におけるソーシャルレンディングの課題
上記の仕組みによれば、日本においても、ソーシャルレンディングを適法に行うことは可能です。
もっとも、プラットフォームにおいて、貸金業者の登録、金融商品取引業(第二種)の登録を行う必要があります。上記のとおりその要件は厳しく、登録手続のためのコストもかかってしまいます。さらに、ファンドの組成・募集等においても一定の書類作成等のコストがかかるといえます。
ソーシャルレンディングの大きな魅力の1つとして、レンダーにとっては高いリターンの実現、ボロワ−にとっては低い金利での融資を受けられるという点があげられます。これは、店舗を持たずにオンラインでレンダーとボロワ−をマッチングし、各種コストを削減することにより実現が可能になるものといえます。しかし、日本で適法にソーシャルレンディングを行うためには、上記のコストがかかってしまうことを考えると、その魅力は減殺されてしまうといえます。また、規模の小さいスタートアップが新規に参入するハードルも、かなり上がってしまうといえるでしょう。

終わりに
上記のとおり、日本の現行法上、ソーシャルレンディングを適法に行うことは可能であるものの、アメリカやイギリスのようにシンプルな仕組みで行うことはできず、追加コストがかかってしまうというのが実情です。
FinTechに対する注目が高まる中、このあたりも規制緩和がなされていくのか、今後の動向に注目したいところです。