2015年10月14日水曜日

ライドシェア(Uber等)に関する法規制

1. はじめに
アメリカをはじめ世界で絶大な人気を誇り、時価総額$50B(約6兆円)超とも噂されるUberですが、2014年8月より東京都で本格的にサービスを開始しています。もっとも福岡では、2015年2月にテストを開始した「みんなのUber」につき、国土交通省からいわゆる「白タク」に該当する可能性が高いとして指導を受け、同年3月にはサービスを中止しています。Uber等のライドシェアサービスに関連する法規制や、いわゆる「白タク」とは何なのでしょうか。

2. 道路運送法の規制の概要
道路運送法上、「旅客自動車運送事業」を営むには許可の取得が必要とされています。
「旅客自動車運送事業」とは、①他人の需要に応じ、②有償で、③自動車を使用して旅客を運送する事業をいうとされています。典型的な事例がタクシーです。
また、許可を取得したタクシー事業者の車(タクシー)以外の自家用自動車は、有償で運送の用に使ってはならないとされています。
上記許可を得ずに、自家用自動車で有償で運送を行う行為が、いわゆる「白タク」として道路運送法上違法とされます。

現在東京で行っているUberのサービスは、上記規制の範囲内で行われています。すなわち、適法に許可を保有しているタクシー業者と提携し、Uberは提携事業者とユーザーを結ぶ仲介業者として配車サービスを行うこととしています。
なお、Uber自身は、かかる仲介事業を行うことに必要となる第2種旅行業の許可を取得しています。
それでは、福岡でのサービスでは何が問題となったのでしょうか。

3. 福岡でテストを開始した「みんなのUber」の概要
2015年2月に福岡でテストを開始したみんなのUberは、一般から募集したドライバーの自家用車を配車するサービスでした。東京でのサービスは許可を保有している提携タクシー事業者の車を配車していたのに対し、「みんなのUber」でのドライバーは許可を保有していなかったことから、問題とされたものです。
もっとも、報道によれば、「みんなのUber」を利用するユーザーは無料であり、Uberからドライバーに対して、「データ提供料」として走行時間に応じた対価を支払っていたとのことです。ユーザーは無料でも上記②「有償」の要件を満たし、「旅客自動運送事業」として許可が必要になるのでしょうか。

4. ②「有償」の解釈
福岡のサービスで問題となった②「有償」の解釈ですが、例えばヒッチハイクのような完全にタダの場合には、許可は不要となります。それでは乗せてもらった人がガソリン代だけドライバーに支払ったような場合はどうでしょうか。
通達によれば、以下のいずれかの場合には「有償」にあたらず、許可は不要とされています。
①「好意に対する任意の謝礼」と認められる場合
予め運賃表等を定めてそれに基づき支払われる場合には、少額であってもこれにはあたらないとされています。
②金銭的価値の換算が困難・又は流通性が乏しい物が支払われる場合
具体例は自宅でとれた野菜(地方農家の場合)等とされており、現金はもちろん、商品券・貴金属等の換金性・流通性の高いものはこれにあたらないとされています。
③(i)当該運送行為が行われる場合にのみ発生する費用であって、(ii)客観的、一義的に金銭的な水準を特定できるものを負担する場合
通常はガソリン代、道路通行料、駐車場料金のみがこれに該当するとされています。人件費、車両償却費、保険料等は、(i)又は(ii)を満たさないため、これにあたらないとされています。
例えばライドシェアサービスの「のってこ!」は、ドライバーと相乗り希望者のマッチングプラットホームを提供していますが、上記通達に従い、「有償」にあたらず許可不要とされる範囲内でサービスを行っています。具体的には、ドライバーが相乗り希望者に請求できるのは、実費(ガソリン代、道路通行料、駐車場代)のみとされており、ドライバーが利益を得る目的でライド・シェアを行うことは禁止とされています。

5. 「みんなのUber」は「有償」?
報道によれば、国土交通省の見解としては、以下のような点から、実質的には「有償」であり、いわゆる「白タク」にあたる可能性が高いと判断したとのことです。
  • 顧客からドライバーへの報酬支払いはなくても、Uberからドライバーには報酬が支払われている。Uberからであれ、顧客からであれ、実態として何らかの形でドライバーに報酬が支払われる場合にはその運送は「有償」に分類される。
  • 「無償」といえるためには、実費としてガソリン代など最小限に留められるべき(上記4.③参照)。しかし、実際に支払われた金額については週当たり数万円に上る場合もあるとのことだった。月額にするとこれはもはや「職業ドライバー」の水準と変わりない。

また、ドライバーとの契約の相手方が日本法人ではなく欧州のUber関連会社であったこと、ドライバーの保険について曖昧だった点等も懸念点であったとされています。「ユーザーの安全性担保に疑問」「守るべきは、利用者」「利用者に不都合なことがあってはいけないというところに最終的には行き着く」という観点から、中止を求めたとされています。
かかる国土交通省からの行政指導を受け、Uberは「みんなのUber」を20153月で中止しています。
上記国土交通省の見解は、本当に「利用者」のためになるものといえるでしょうか。利用者の立場としては完全無料のサービスであったわけで、友人や家族の車に乗せてもらい送ってもらう感覚で、このサービスを利用してみたいというニーズもあったのではないでしょうか。

6. 終わりに
道路運送法上、①他人の需要に応じ、②有償で、③自動車を使用して旅客を運送する事業を(旅客自動車運送事業)を営むには許可取得が必要とされています。
Uberの東京でのサービスは、許可を得た提携タクシー事業者のタクシーを配車する点で上記規制に従ったものです。これに対し福岡の「みんなのUber」は、許可を有しない一般ドライバーの車を配車した点で、無許可でのいわゆる「白タク」として問題視されました。

もともとアメリカで始まったUberLyft等のライドシェアサービスは、車を持っており運転できる個人と、ライドを提供してほしい個人とをマッチングするというシェアリングエコノミーの発想で始まったサービスです。シェアリングエコノミーの社会的有用性については従前の記事でも記載したとおりですが、ライドシェアも、自分の車・空き時間というリソースを活用したい個人と、タクシー等の既存の交通手段よりも安い価格でライドを受けたい利用者の双方のニーズを叶えるものといえます。
現在の道路運送法の枠組みの下では、既存の許可を有するタクシー事業者の配車サービス(東京都でのUberのサービス)という形になってしまいますが、これでは本来のシェアリングエコノミーの発想を実現することはできません。自分の車・空き時間というリソースを有効活用したい個人(プロのタクシー運転手ではなく)のニーズを叶えることはできませんし、既存のタクシー事業者と提携する以上既存タクシーよりも安価とすることは難しいと考えられます。確かに利用者の安全確保は重要ですが、許可の取得(行政による監視)という既存の方法以外にも、安全確保が可能な方法は存在するように思われます。例えばアメリカのUberでは、Uberによる厳しい審査やレーティングシステム等により安全確保を図っており、これが現実に機能しユーザーの信頼を勝ち得ているからこそ、同社サービスの急成長が実現できたと考えられます。
規制改革会議においても、シェアリングエコノミーに関する規制緩和が議論されておりますが、現状ライドシェアに関する具体的な議論はまだなされていないようです。今後の展開に期待したいところです。

2015年9月20日日曜日

Airbnb・民泊ビジネスは違法?(2) - 規制緩和動向、賃貸借契約等

1. はじめに
前回の投稿で、Airbnb等を利用した民泊ビジネスについて、「反復継続の意思」をもって行っており「営業」にあたるとされる場合には、旅館業法上違法とされる可能性があると書きました。
もっとも、かかる旅館業法の規制について、2020年の東京オリンピック開催に向けて高まる外国人観光客の滞在のニーズに応えるため、政府は一部の地域(国家戦略特区)において旅館業法の規制を緩和すると発表しました。

2. 規制緩和政策の具体的な内容

(1)国家戦略特別区域法
かかる旅館業法の規制緩和政策として、2015715日付で国家戦略特別区域法が施行されました。同法では、「外国人滞在施設経営事業」として内閣総理大臣の認定及び都道府県知事の認定を受けた場合には、旅館業法の許可は不要とされています。

「外国人滞在施設経営事業」といえるためには、以下の①〜④を含む要件を満たすことが必要とされています。
①「国家戦略特別区域」内であること
平成2651日に、以下の6区域が指定されています。
  • 東京圏(東京都千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、江東区、品川区、大田区及び渋谷区、神奈川県並びに千葉県成田市)
  • 関西圏(大阪府、兵庫県及び京都府)
  • 新潟県新潟市
  • 兵庫県養父市
  • 福岡県福岡市
  • 沖縄県
 ②外国人旅客の滞在に適した施設であること
具体的には、施設の各部屋は以下を含む要件を満たすことが必要とされています。
  • 床面積は、原則25㎡以上であること。
  • 出入口・窓は、鍵をかけることができること。
  • 適当な換気、採光、照明、防湿、排水、暖房及び冷房の設備を有すること。
  • 台所、浴室、トイレ・洗面設備を有すること。
  • 寝具、テーブル、椅子、収納家具、調理のために必要な器具又は設備、清掃のために必要な器具を要すること。
710日までの範囲内、かつ、都道府県の条例で定める期間以上の滞在の賃貸借契約であること
④施設の使用方法に関する外国語を用いた案内、緊急時における外国語を用いた情報提供その他の外国人旅客の滞在に必要な役務を提供すること

7日未満の短期滞在では、上記③の要件は満たしません。また、現状Airbnb等で民泊ビジネスを行っているホストのうち、例えば自分のマンションの居室のうちの1ベッドルームのみを提供しているようなケースでは、②の要件を満たさない場合が多いと考えられます。こうしてみると、現状Airbnb等で提供されている物件の実態に照らせば、上記要件を全て満たす場合はかなり限定されてくると思われます。

(2)都道府県の条例
さらに、上記③のとおり、滞在期間については、710日までの範囲内かつ都道府県の条例で定める期間以上であることが必要とされています。しかし、本記事執筆時点において、かかる条例を実際に成立させた都道府県はまだ存在しておらず、上記緩和政策に基づいて適法に外国人滞在施設経営事業を行うことはまだできないというのが現状です。
上記緩和政策に基づき、国家戦略特区において民泊のマッチングサービスを提供予定だったスタートアップ「とまれる」(20145月にはエイブルと業務提携)も、条例が制定されていないため、いまだサービスを開始できていないとのことです。

3. 賃貸借契約
自己の所有物件ではなく賃借物件をAirbnb等で提供する場合には、旅館業法の問題に加えて、賃貸借契約上の問題も生じることとなります。
ほとんどの賃貸借契約においては、無断転貸は禁止とされており、物件を第三者に使用させた場合には、期間や回数等を問わず「転貸」にあたる(すなわち、1Airbnb でゲストを1泊させた場合には、即「転貸」にあたる)とされていると考えられます。そして、無断転貸を行った場合には、賃貸人(大家さん)は賃貸借契約を即時解除できるという条項が入っていることが一般的です。

よって、大家さんの許可を得ずに賃借物件をAirbnbで提供した場合には、無断転貸にあたるとして賃貸借契約を解除されてしまう(追い出されてしまう)リスクが存在することになります。
賃貸借契約締結時に、Airbnb等での提供を可能とできるよう大家さんと交渉することも考えられますが、現状の日本(特に東京等の首都圏)の実態としては受け入れられない場合が多いのではないかと思います。Airbnbでの収入を一部レベニューシェアする等の条件で転貸への承諾を得ることも考えられますが、これも現状では一般的に受け入れられるものではないと考えられます。
将来Airbnb等のサービスがより広く普及し一般化した場合には、上記レベニューシェア等の仕組みを受け入れる不動産賃貸業者・大家も現れてくるかもしれません。

4. マンション規約
マンションの場合は、所有・賃貸の場合の両方において、マンション規約との関係も問題となります。特に首都圏のタワーマンション等においては、マンションの規約においてAirbnb等での貸し出しは禁止と明記されている場合もあるかもしれません。また、マンション規約に違反した場合には是正を要求できる、それでも是正しない場合には最終的には退去を求められる等の規定も設けられている可能性があります。

5. 税制上の取り扱いについて
なお、Airbnbで得た収入については雑所得にあたり、Airbnbによる収入ー経費の金額が年間20万円を超える場合には、確定申告が必要とされています。これを給与所得等の自己のその他の所得額と合算して総所得額を計算し、税率が決められることとなります。

6. まとめ
上記のとおり、旅館業法の規制については、特区における規制緩和政策が進められているものの、床面積等の施設の条件・宿泊期間の制限(710日以上)等が厳しく、緩和政策を利用できる事例は限定的です。さらに、都道府県条例が制定されるまでは、適法に緩和政策を利用することはできないこととなります。
外国人観光客の増加に対してホテル等の宿泊施設不足・宿泊料金の高騰が問題となっており、事態は東京オリンピックに向けて更に悪化していくと考えられます。本来シェアリングエコノミーの発想はかかる状況を解決する有効な手段となり得るはずですが、現状の緩和政策の下では、適法として許容される範囲があまりに狭すぎるように思われます。前回の投稿でも述べた、そもそも旅館業法の規制をシェアリングエコノミーという新しい発想にそのまま適用することへの疑問も踏まえ、もう一歩進んだ規制緩和がなされることに期待したいと思います。
また、法規制の問題とは別途、賃貸借契約・マンション規約の問題も生じる点は注意が必要です。

2015年9月14日月曜日

Airbnb・民泊ビジネスは違法? (1) - 日本の現行法規制等

1. はじめに
Airbnb等を利用した民泊ビジネス(個人がマンションの空室等を、観光客等に向けて有料で提供するビジネス)については、近時注目が高まっているところかと思います。
もっとも、近時の報道において、日本でのAirbnbの登録件数はこの1年で3倍になったが(20158月現在で約13,000件)、多くは旅館業法上必要となる許可を得ていないことから、政府が実態調査に乗り出したとされています。
民泊ビジネスは違法なのか、旅館業法の規制の概要 等について記載してみました。

2. 旅館業法の規制
(1)「旅館業」の定義

旅館業法上、「旅館業」を営むには都道府県知事の許可が必要とされています。
「旅館業」とは「①宿泊料を受けて②人を宿泊させる③営業」とされています。

①「宿泊料」は名目のいかんを問わず、実質的に寝具や部屋の使用料とみなされるものは含まれるとされています(例:休憩料、寝具賃貸料、寝具等のクリーニング代、光熱水道費、室内清掃費等)。
②「宿泊」とは「寝具を使用して施設を利用すること」とされています。
なお、「宿泊させる」場合には旅館業の対象となりますが、アパートの賃貸・間借り部屋などの「賃貸借」は、旅館業法の対象外となっています(賃貸借の場合は許認可は不要ですが、賃貸借契約の条件等については借地借家法の対象となります)。
「賃貸借」ではなく「旅館業」にあたるのは、判例等によれば、(i)宿泊者が生活の本拠を置いていない(住んでいるとはいえない)場合であって、(ii)宿泊期間が1ヶ月未満の場合とされています。
かかる「賃貸借」と「旅館業」の違いについては、Yahoo!トラベルが2014年4月に開始した軽井沢の高級別荘レンタルサービスを開始1ヶ月で停止したというニュースでも話題になったところです。(運営側は賃貸借であり問題ないとの見解であったが、行政側は賃貸借名義であっても実態として旅館業の問題があるとしたもの。)

Airbnbの場合は通常、①有料で、②ベッド等がある部屋を提供するのが一般的で、かつ上記判例等を前提とすれば「賃貸借」とはいえない(ゲストが生活の本拠を置いている/住んでいるものではなく、期間も1ヶ月未満が通常)と考えられます。
よって①②の要件は通常満たすと考えられます。

ここで③が問題となりますが、「営業」の定義は法令上明確に定められていません。様々な業法に関する判例においては、「反復継続の意思」をもって行われている場合は「営業」にあたるとされており、(i)社会通念上「事業の遂行」とみることができるか、(ii)不特定多数の者を相手に行われているか等を考慮して、「反復継続の意思」があるかを判断するとされています。

(2)「旅館業」にあたる場合の規制
「旅館業」にあたる場合、都道府県知事の許可が必要となりますが、許可の取得に際しては、所定の構造設備基準に従っていることが必要とされています。また、旅館業の運営は、都道府県の条例で定める換気、採光、照明、防湿、清潔等の衛生基準に従う必要があり、宿泊者名簿の作成・フロントの設置等が義務付けられています。
無許可で旅館業を経営した場合には、刑事罰(6月以下の懲役又は3万円以下の罰金)も設けられています。報道によれば、20145月に東京と足立区で住宅を宿泊施設として提供していた英国人男性が逮捕されたという事例も出ているとのことです(もっとも、足立区保健所の10回にわたる行政指導を無視したとの経緯があったとされており、かなり悪質な事案だったといえそうです)。

3. Airbnbにおける旅館業法の適用


a. (会社としての)Airbnb

Airbnbは、規約上、あくまで自社はplatformの提供者に過ぎず、物件を提供するものではないとしています。このことからすれば、Airbnbが自ら旅館業を営んでいるとはいえないと考えられます。もっとも、下記のとおり、ホストが旅館業法違反となるような場合には、違反行為を黙認・助長しているとして問題視される可能性はあるといえます。

b. ホスト
Airbnbのホストについては、上記③「営業」にあたるかが問題となります。
例えば、(a)長期休暇の際に旅行で家をあけることになったので、試しにAirbnbで貸してみようというような場合には、「営業」にあたらないと考えられます。
しかし、(b)Airbnb専用の物件を所有又は借りており、不特定多数のゲストに対して何度も・かつ継続してAirbnbで貸しているような場合には、「反復継続の意思」があり「営業」にあたるとされる可能性はあるといえます。無許可営業で旅館業法違反とされた場合に、実際にどのような処分がなされるかは、政府や都道府県の方針次第ですが、冒頭で紹介したように政府が民泊ビジネスを問題視して実態調査を始めたという報道があることからすれば、今後行政指導が増えて行く可能性もあるかもしれません。最悪の場合には刑事罰という可能性もありますが、上記2014年5月の事例のように、行政指導を何度も無視するような悪質な事例が対象となるのが通常と考えられます。

さらに、上記(a)と(b)の事例の中間にあたるような場合にどうなるかは、現行法上は明確ではありません。例えば、出張等で家を不在にすることが比較的多い人が出張中にAirbnbで貸す場合や、GWや年末年始等の観光シーズンに自宅の1室をAirbnbで貸す場合 等。
余剰リソースの有効活用というシェアリングエコノミーの社会的有用性については以前の投稿でも述べましたが、上記のような場合はまさに典型的な事例といえるかもしれません。ホストとしては空室の有効活用・ゲストとしてはホテル等より安価での宿泊が可能となります。上記事例において、空室のシェアリングエコノミーの実現が可能になるよう、現行法の改正等による明確化が望まれます。
そもそも旅館業法の趣旨は、「旅館業の健全な発達」「利用者の需要の高度化及び多様化に対応したサービスの提供を促進」「公衆衛生及び国民生活の向上に寄与すること」とされています。公衆衛生の観点での必要性はあるとしても、Airbnbのレーティング(ゲストからの評価)等の仕組みでも一定の自然淘汰がなされていくと考えられます。また、「利用者の需要の高度化・多様化に対応したサービスの提供」という意味では、正にAirbnbの仕組みは、ホテル・旅館不足を補い、地元の人の家に泊まってみたい等のゲストの新しいニーズをかなえるものといえます。また、ホテル・旅館に泊まるという体験と、人の家の一室に泊まるという体験とが異質なものであることや、宿泊施設の不足・宿泊料金の高騰が騒がれている現状からすれば、既存のホテル・旅館の過剰な保護は望ましくないという議論もあるかと思います。シェアリングエコノミーという新しい発想に合わせた法規制の整備が必要といえるのではないでしょうか。

4. まとめ
上記のとおり、Airbnbのホストが「反復継続の意思」をもって行っており「営業」にあたるとされる場合には、旅館業の許可を取得することが必要であり、無許可営業の場合は違法とされる可能性があることになります。
もっとも、かかる旅館業法の規制については、東京オリンピック開催に向けて高まる外国人観光客の滞在のニーズに応えるため、政府による規制緩和政策が進められています。
かかる規制緩和の具体的な内容や、賃貸借契約上の取り扱い等について、次回記載したいと思います。

2015年9月13日日曜日

Sharing Economyを揺るがす訴訟 - Employee vs Independent Contractor

1. はじめに
オンデマンド掃除代行サービスのHomejoyが2015.7.31付でサービスをshutdownしたことは記憶に新しい(Homejoy blog)。上記shutdownの一因は、Homejoyのcleanerがemployeeかindependent contractorであるかを巡って提起された訴訟であるとされている。この問題は、余剰リソースを提供する側と顧客とをC to Cでマッチングするsharing economy業界の多くの企業に共通する問題であり、今後の同業界への影響について大きな注目が集まっている。
同様の訴訟は、sharing economy型のサービスを提供する各社に対して提起されている。例えば、Uber・Lyft(ライド・シェア)、Handy(掃除代行)、Try Caviar・Postmates(フードデリバリー)、Instacart(食料品等の買物代行)等。

2. Employeeとindependent contractorの違い、sharing economyとの関係
Employeeとは、企業等に雇用されている従業員をいい、仕事が提供される方法・手段等につき雇用主が管理・指示権限を有する場合には、employeeにあたるとされる。
Independent contractorとは、一般公衆に対して独立して事業・サービス等を提供する者(医者・弁護士・請負人等)をいい、依頼主が仕事の結果についてのみ管理・指示権限を有する(仕事が提供される方法・手段等につき管理・指示権限を有しない)場合はindependent contractorにあたるとされる。
両者の区別は、形式的な契約形態のみではなく、実態に基づいて判断すべきとされる(IRSが公表している主要な考慮要素はこちら)。
Employeeにあたる場合、企業側には時間外・休日労働の割増賃金支払い、職務に関して支出した諸経費の支払い、医療保険の提供等が義務付けられ、企業側のコストは増す。かかる義務が設けられている根拠はemployeeの権利保護にある。Independent contractorは独立して自己の事業・サービス 等を提供する者であり、個々の依頼主と交渉して自己に有利な条件で取引するバーゲニングパワーがあるのに対し、employeeは強者である雇用主との間でかかる交渉力を持たず、法による保護が必要というものである。

Uber、Homejoy等のSharing economyの元来の発想は、ライドや家事等のサービスを受けたい個人と、自己の空き時間や車等の余剰リソースを有する個人とをマッチングし、これらのリソースを有効活用する点にあった。上記元来の発想からすれば、リソースの提供者側は、自分の空いた時間に、サービスのニーズを有する各個人に対して個別にサービスを提供するのであって、むしろindependent contractorに近い発想であったはずである。
しかし、サービスを利用する依頼者の顧客満足度の達成という観点からは、UberやHomejoyを通じて提供されるサービスにつき一定のquality controlを及ぼすことが必要となる。よって各社は、登録時の審査・サービス提供の際のガイドライン・レーティング制度(例えばUberでは一定レーティングを下回ると契約終了が可能)等により、ドライバー /cleaner等に対して一定のcontrolを及ぼそうとした。事業が成長し利用者が増えるにつれ、利用者の安心・安全確保のためのプラットフォーマーとしての責任という観点からも、かかるquality controlの重要性は増したといえる。
他方、プラットフォーマーの力が強くなり、controlが強くなるにつれて、元来の雇用におけるemployee保護と同様の要請が出てくることになる。前述のsharing economy各社に対する訴訟の原告の中には、例えばUberの収入で生計を立てている者もいると考えられ、このような場合にはUberは雇用主と類似の交渉力を有するといえるだろう。
これらの訴訟の今後の展開は、sharing economyの社会的有用性・プラットフォーマーによる一定のquality controlの要請と、リソース提供者側の保護の要請とのバランスをどのように解決するかという問題について、重要な意味を持ってくると考えられる。

なお、上記問題に関して、independent contractorではなく従業員として扱うという対応をしている企業も存在する。フードデリバリーのMunchery、バトラーサービスのAlfred、掃除代行のMyClean等。Employeeとして雇用することによりコストは増えるが、しっかりとしたコントロールを及ぼしサービスの質・顧客満足度を高めるという方針だ。これに対し、independent contractorに過ぎないという立場を貫いた上、訴訟リスクを減らしたいという場合には、コントロールを極力減らすという方針となろう(例えばCraigslistのようなプラットフォーム提供のみの形)。但し、前述のquality controlの要請をどう担保するかは課題となろう。

3. 裁判における判断
これらの訴訟のうち、independent contractorではなくemployeeであるという裁判所の判断が下されたものとして、①Uberに対する2015.6.16付California Labor Commissionによる判断、②FedExに対する2014.8.27付California Ninth Circuit Court of Appealsがある。なお、①についてはUberが控訴、②についてはFedExは2,000人を超えるドライバーからの訴訟につき$228Mで和解したとされている(Forbesの記事)。
両訴訟において、以下のような理由により、Uber/FedExがドライバーによる職務の提供に対してコントロールを及ぼしていると判断された。
①Uber

  • ドライバーが提供しているものは車と労働力に過ぎず、事業に不可欠な知的財産権(アプリ)を提供しているのはUberである。
  • ドライバーの登録に際しては個人情報提出・Uberによるバックグラウンドチェックの完了が必要。
  • 使用する車はUberへの登録が必要。
  • Uberはドライバーのレーティングが4.6 starsを下回れば契約を終了させることができる。

②FedEx

  • ドライバーのユニフォームの指定、車両へのFedExロゴ掲載等の義務付け
  • ドライバーの1日の勤務時間は9.5-11時間となるよう管理
  • FedExがドライバーに対し、配達地域、配達すべき荷物・時期を指定

上記各要素を見る限りでは、類似の訴訟を提起されたsharing economy各社に対しても当てはまる点が多いと思われる(企業側が事業に不可欠なアプリ等を提供している点・登録時に一定の審査を要する点等)。もっとも、①の判断はUberが控訴中であり最終確定したものではなく、また原告の当該ドライバーについてのみ当てはまるものである。今後の裁判では、②FedExとは異なり背景にあるsharing economyの発想(個人が空き時間を利用し、余剰リソースを提供してお金を稼ぐ)も加味した判断がなされることを期待したい。例えばUberで生計を立てているドライバーと、子供が学校に行っている日中の空き時間を活用してHomejoyでお小遣いを稼いでいる主婦とでは、全く同じ基準を用いて判断することは必ずしも必要ないのではないだろうか。


①、②における主要な考慮要素・裁判所の判断の概要は以下のとおり。

考慮要素裁判所の判断(概要)
①Uber
Uberがドライバーへのコントロールを及ぼしているかサービスのニーズがある顧客を獲得し、ドライバーにそのサービスを行わせることにより、Uberは業務のオペレーション全体について必要なコントロールを及ぼしているといえる。
雇用であるとの推定が働き、Uber側にindependent contractorであるとの立証責任がある。
ドライバーが所有する車であることは重要な要素とはならない。
ドライバーの行う仕事が、Uberの通常事業における不可欠な要素であるか否かドライバーの仕事は、Uberの事業に不可欠である。Uberは乗客に運送サービスを提供しており、実際に顧客の運送を行うドライバーなしにはUberの事業は成り立たない。
ドライバーが、Uberと比して、独立したビジネス又はプロフェッショナルサービスを提供しているといえるかドライバーが提供しているものは車と労働力に過ぎない。ドライバーは利益や損失に影響を及ぼすような管理職的なスキルを提供していない。
Uberは事業に不可欠なアプリを提供しており、この知的財産権なしにはドライバーは仕事を提供することはできない。
Uber側の反論:
Uberはドライバーと乗客を結ぶ、中立なテクノロジープラットフォームにすぎない
実態としては、Uberはオペレーションの全ての要素に関与している。
ドライバーとしての登録:
ドライバーはUberに対し、個人の銀行・住居情報、Social Security Number等を提出することが必要であり、Uberのバックグラウンドチェックが完了するまでプラットフォームの利用は不可。
業務に使用するツール:
Uberが管理している。ドライバーは所定基準に従い、車をUberに登録しなければならない。Uberはドライバーのレーティングを監視しており、4.6 starsを下回れば契約を終了させる。
Fees:
Uberがドライバーに支払うサービスフィーにつきドライバーは交渉不可。Uberを呼んだ後キャンセルされた場合、ドライバーはキャンセル料金を保証されていない(Uberがその裁量で顧客とキャンセル料金の交渉を行う)。Uberはドライバーに対し、チップを受け取らないことを奨励。
②FedEx
FedExが、ドライバーへのコントロールを及ぼしているか契約書上は、independent contractorとされているが、契約書上の形式的な整理は重要ではなく、実態に着目すべき。
以下のとおり、FedExはドライバーの職務提供の方法につき多大なコントロールを及ぼしている。
 ①ドライバー・車両の外観ドライバーのユニフォームが規定されており、就業規則等で外観についての詳細な要件あり。
車両について、FedExロゴの掲載・色・サイズ・素材等の詳細な要件あり。
上記基準に満たない場合、マネージャーはドライバーの職務提供を行わせないことができる。
 ②ドライバーの勤務時間ドライバーの勤務時間:
実態としては、ドライバーの勤務日における勤務時間は9.5-11時間と決まっており、これを超える又は下回ることがないようFedExにより管理されている。
 ③ドライバーが荷物を配達する方法・時期FedExが各ドライバーに対し、配達地域を指定、配達すべき荷物・時期を指示。荷物の配達時期等はFedExが直接顧客と交渉する。

4. 終わりに
Sharing economyの社会的意義・ニーズについては言うまでもないが、プラットフォーマーによる一定のquality controlの要請と、リソース提供者側の保護の要請とのバランスという問題が今後どのように解決されていくか、大変興味深い。
各社に対して提起された今後の訴訟の動向についても引き続き要注目である。

2015年8月30日日曜日

法務関連スタートアップ - アメリカ・日本の傾向等

1. はじめに
アメリカでは、Legal marketの市場規模は$400 bilionとする予測もあり、法務関連のスタートアップも多数登場しています。報道記事によれば、2013年の法務関連スタートアップへの投資額は$150 million超とされており、スタートアップ企業等のデータベースAngel Listに登録されている法務関連スタートアップ企業の数は900を越えています(平均valuationは$4.1Mとのこと)。

2015年8月18日・19日に開催されたY CombinatorのSummer 2015 (S15) Batchにおいても、参加した85社のうち、legal関連の事業が3社含まれていました。(なお、YC S15参加チームの紹介についてはこちらのブログも参照。https://medium.com/@tdk1105
報道記事等によれば、3社の概要は以下のとおりです。

ROSS Intelligence (紹介記事
IBMの人工知能システムのWatsonの自然言語処理能力を活用した法律関連リサーチツールを提供。裁判例等の法律関連情報が複雑・膨大すぎて、キーワード検索ではうまく情報が見つからないという現状に着目し、通常の会話のような質問等での検索を可能にする。現在は倒産・破産関連分野が中心だが、今後拡大予定。

Ironclad (紹介記事
企業向けにNDA・売買契約等の雛形を提供、基本情報を入力して契約書の作成が可能。
現在提供しているベータ版では(a)NDAの作成は無料、(b)販売契約・委託契約等の追加の雛形へのアクセスについては月額$49、(c)ユーザー独自の雛形をインポートできる機能の追加に$199とされている。

Willing (紹介記事
(a)法的に有効な遺言を簡単に作成できるオンラインツール、及び(b)葬儀場・墓地等の費用を比較できるプラットフォームの提供。

2. アメリカにおけるlegal関連スタートアップ
報道記事によれば、アメリカのlegal関連スタートアップの傾向として主に以下の3つのタイプがあげられるとされています。

①オンライン契約書作成ツールの提供
典型的な契約書の雛形の提供や、具体的な情報を入力することによりカスタマイズされた契約の作成が可能となるオンラインツールを提供。中小企業やスタートアップ・個人事業主等をメインターゲットに、弁護士に依頼するよりも安価な契約書の作成を可能にするものです。もっとも、雛形のみでは個別具体的な事情に応じた対応が必ずしも可能ではなく、弁護士への相談が必要となるケースもあるという問題は認識されています。そのため、雛形の提供とあわせ、個別事情に応じた弁護士への相談も可能なプラットフォームをあわせて提供する企業が多いとのこと。
具体例としてはlegalzoomRocketLawyer等。上記のIncladもこのタイプです。

② 弁護士と顧客をつなぐマーケットプレイス
顧客側は、専門分野・弁護士報酬金額・口コミ等をもとに自分のニーズに合う弁護士を探し、すぐにコンタクト・依頼することが可能となります。中には相談事項に対する複数の弁護士からの報酬提案を受け(bidのような形式)、これを踏まえて依頼する弁護士を選ぶことができるサービスも存在します。
弁護士側(特に大事務所に所属しない個人弁護士)にとっては顧客獲得の有効な手段となり得ると言えます。
具体例としてはPrioriUpCounselLawDingo等。
また、Hire an Esquireはlaw firmとlegal staffをつなぐマーケットプレイスを提供しています。

③弁護士の業務円滑化のためのtechnology tool提供
弁護士が時間を使うことが多いリサーチ・書類レビュー・請求処理等について、効率的に処理できるtechnology toolを提供するサービス。弁護士報酬はタイムチャージベースで請求されることが多いため、顧客としては弁護士報酬の低減につながり、また弁護士側は業務の効率化につながります。
弁護士のためのリーガルリサーチ支援ツール:CaseTextJudicataRavelLaw
機械学習を活用した契約書等の文書レビューツール:Kira Diligence EngineeBrevia
弁護士・顧客間のコミュニケーション円滑化のためのツール:LawPal(プロジェクト管理ツール)、ViewABill(報酬請求の管理ツール)
知財関連のファイリングの円滑化ツール:plainlegal

3. 日本におけるlegal関連スタートアップ
アメリカに比較すると、日本においてはlegal関連スタートアップはまだまだ少ないというのが現状です。
②マーケットプレイスのタイプとして、2014年12月に上場した弁護士ドットコムがあげられます(2015年8月時点の登録弁護士数8,300人超とのこと)。また、スキル・知識・経験等のC to Cシェアリングエコノミー型サービスを提供するココナラでは、2015年7月に弁護士による無料法律相談キャンペーンを実施しており、弁護士・顧客をつなぐ場としての利用の可能性も今後あり得るといえそうです。

4. 関連法規制
上記②マーケットプレイスにおいては、日本では弁護士法第72条の規定が問題になると言われています。弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で業として法律事務を取り扱い、又はその周旋をすることはできないとされています。これにより、弁護士・顧客の仲介について仲介料を取ることは違法となってしまいます。弁護士ドットコムでは、無料登録弁護士・顧客からは手数料を徴収していないこと、有料登録弁護士からは定額での登録料金を受領するのみであり、その料金は顧客の仲介件数等に応じて決まっているものではないことから、上記規制に反しない形での運用としているとのことです(FAQ)。

もっとも、上記規制は日本に特有のものというわけではありません。
American Bar AssociationのModel Rules of Professional Conduct 7.2(b)においては、弁護士は、認可を受けたlawyer referral service(各州やそのbar associationにより運営されることが一般的)に対して支払う場合を除き、弁護士以外の者による顧客の紹介に対してreferral feeを支払ってはならないとされています。
上記②マーケットプレイスタイプのPriori、UpCounsel、Lawdingo等においても、弁護士の情報を掲載するマーケットプレイスに過ぎず、特定の弁護士の推薦・周旋等を行うものではないとして、legal referral serviceではないとの立場を取っています。

5. 終わりに
日本では、アメリカと比較してlegal関連スタートアップはまだまだ少ないといえます。弁護士法の規制はハードルとはなるものの、同様の規制はアメリカにも存在しており、これだけが重要な理由ではないと考えられます。他の理由としては、弁護士の数がアメリカと比べて圧倒的に少ない・訴訟の件数も少なくリーガルリスクが相対的に低いといえることから、市場規模や顧客ニーズがあまり大きくないということはあげられるかもしれません。もっとも、弁護士へのアクセスが現状容易ではない個人・個人事業主・中小企業・スタートアップ等に対するアクセスの提供、リーガルサービスを既に利用している大企業・法律事務所に対する業務の効率化やコスト低減については、一定のニーズはあると考えられます。アメリカでの先進的な取り組みも参考に、今後日本で考えられるソリューションについて考えてみるのも面白いと思っています。

2015年8月24日月曜日

Googleの組織再編ー持株会社Alphabetの設立

1. はじめに
2015.8.10付で、Googleが大規模なrestructuringを公表しました。主要な内容は以下のとおりです。
  • 公開持株会社のAlphabet Inc.(Alphabet)を設立。GoogleはAlphabetの完全子会社となる。
  • 現Google株主が保有するGoogle株式は、同数・種類・権利のAlphabet株式に自動転換される(Google株主の課税なし)。Alphabet株式は、現在と同様、Nasdaq市場において、GOOGLとGOOGという銘柄で取引される。
  • Alphabetの傘下では、以下の各事業がそれぞれ別個に運営される。
    • Google business(検索、広告、地図、アプリ、YouTube、Android)
    • Calico(Googleが2013年に設立した、老化・老齢疾患等をターゲットとするヘルスケア・バイオテクノロジー企業)
    • Life Science(血糖値測定コンタクトレンズ等)
    • Nest(Googleが2014年に買収した、家庭用サーモスタット等を手がけるIoTハードウェア企業)
    • Fiber(高速ブロードバンドサービス)
    • 投資事業(Google Ventures、Google Capital)
    • Google X(自動運転事業を含む、インキュベーター)
  • 現Google経営陣がAlphabetの経営陣となり、GoogleのCEOにはSundar Pichai氏が就任。


2. Restructuringの法的手法
Googleの同日付Form8-Kによれば、restructuringは、Delaware州会社法§251(g)の規定に基づき、Googleの株主の同意を経ないで行われるものとされています。具体的な手順は以下のとおりです。
①Googleの完全子会社として、Alphabetを設立
②Alphabetの完全子会社として、合併のための特別目的会社(Merger Sub)を設立
③Googleを存続会社、Merger Subを消滅会社とする合併
→③の合併対価として、Merger Subの株主であるAlphabetはGoogleの全株式を取得します。また、現Google株主は、同数・種類・権利のAlphabet株式を取得します。



Delaware州会社法§251(g)は、1995年の改正により追加された規定であり、Delaware法準拠の会社(ここではGoogle)が、持株会社の完全子会社と合併することによる組織再編について、以下を含む一定の要件を満たす場合には、株主の同意を不要とするものです。
・Googleの現株主が、同数・種類・権利の持株会社株式を取得すること
・持株会社がDelaware州法準拠の会社であること
・持株会社の定款 等(Certificate of Incorporation, Bylaws)の内容が、現在のGoogleの定款等の内容と同一であること
・事業会社の取締役が、組織再編後において持株会社の取締役として残留すること
これらの要件を満たす場合には、組織再編の前と後で、株主が議決権を行使できる内容を含め、株主の権利に変更が生じないこととなります。上記規定は、株主の権利に変更が生じないことを確保した上で、株主の同意なしに、柔軟・迅速に組織再編(持株会社化)を行うことを可能としたものです。

3. 日本の会社法下での持株会社化の手法
例えば、日本において、直接関連しない複数の事業を行っている事業会社が、同様の持株会社化を行いたいという場合には、どのような法的手法が考えられるでしょうか。いくつか考えられますが、典型的なものとしては以下が挙げられます。

①株式移転方式
株式移転とは、事業会社が、その発行済株式の全部を新たに設立する持株会社に取得させる(持株会社を新たに設立する)ことをいいます。株式移転には株主総会の特別決議による承認が必要とされています。
株式移転は、純粋持株会社の設立を実現するための手段として導入されたものですが、これにより事業会社の株主全員がその地位を失うため、株主総会の承認なしで行うことはできないとされています。
上記のとおりDelaware州法においては、持株会社の株主となった後も株主の権利に変更が生じないのであれば株主の同意不要とされていましたが、日本においてはそのような柔軟な取り扱いはまだ認められておりません。

②抜け殻方式
事業会社が、会社分割(新設分割)等の方法により、その事業を子会社として切り出して持株会社となる方法です。Googleの事例のように分割により切り出す資産の額が大きい(事業会社の総資産額の20%以上)場合には、事業会社の株主総会での承認が必要となります。

③三角合併方式
三角合併とは、消滅会社の株主に対して、存続会社の株式ではなく、存続会社の親会社の株式を交付するものです。日本においては、会社法により合併対価の柔軟化が認められたことにより、三角合併が可能となりました。
三角合併を利用し、2.のGoogleが採用したのとよく似た手法を取ることが考えられます。ただし、この場合において、日本の会社法下では、事業会社を存続会社とし、Merger Subを消滅会社とするというやり方はできません。持株会社化を実現するためには、事業会社の株主→持株会社の株主としなければならないのですが、日本の会社法上は、存続会社(事業会社)の株主に合併対価を交付して、存続会社の株主という地位を失わせることはできないと考えられているからです。よって、事業会社を消滅会社とし、Merger Subを存続会社とする三角合併を行うことが考えられますが、この場合、事業会社の法人格が消滅してしまうので、事業に関連して保有している許認可を新たに取り直さなければいけないという問題が生じてしまいます。

上記のとおり、日本の会社法下においては、同様の組織再編を行うには(③の方法が難しいことを前提とすると)株主総会を開催し株主の承認を得ることが必要となります。
それに比して、Delaware州会社法の規定は、株主の同意を不要とし柔軟・迅速に持株会社化を行うことを認めるものであり、Googleはかかる規定をうまく利用して今回のrestructuringを行ったものといえます。


4. 終わりに
今般のGoogleのRestructuringの意図・想定されるメリットに関しては様々な議論がなされていますが、Googleのオフィシャルブログにおいては、 直接関連しない各事業の独立運営(これによる更なる経営規模の拡大)、持株会社における長期的視点でのグループ経営戦略の実現等が主要な目的としてあげられています。報道記事では、近年Google社員が競合他社に引き抜かれた事例が少なからずあったことを踏まえ、各事業の責任者に子会社CEOの地位を与えることによるモチベーション維持・優秀な人材の確保も大きな目的の1つだったのではないかとされています。
今般のrestructuringによりGoogle事業と別個に運営されると発表された事業のうち、Life Science、Google X以外の事業については、restructuring前においても既にGoogleの子会社として運営されているようです。このことからすれば、Life Science、Google X事業の切り離し(別法人とすることによるliabilityの遮断)も目的の1つかもしれません。
他方考えられるリスクとして、Googleの有するデータ・IP・人材等のリソースの各事業間での共有が以前ほど容易ではなくなる、Alphabetからの資金等のリソース配分を巡っての各事業間での競争等もあげられています。
どのように上記リスクを乗り越えて目的を実現できるか、Restructuring後のAlphabet・Googleの新たな挑戦に期待したいところです。

2015年8月3日月曜日

Preferred Sharesの主要条項・近時のunicornsへの投資における傾向

1. はじめに
Seed段階の投資においては、先日ご紹介したY CombinatorのSAFEや500 startupのKISS、Convertible Notesが使用されることが多いが、Series A以降やmid/later stageの投資においてはpreferred sharesが使用されることが一般的である。
Preferred sharesにおいては、会社の事業が安定段階に入ってきており投資規模も大きいことから、投資家の一定のprotectionが設けられることが多い。

Fenwick & West LLP(Silicon Valleyにおいて最も評判が高い法律事務所の1つ)の2015.3.31付けのレポート(Fenwick Report)では、US拠点の37社のunicorns($1 billion(約1,200億円)以上のvaluationを有するベンチャー企業)が2014.4.1-2015.3.31に行った資金調達について、preferred sharesの主要条項の分析がなされている。Unicornsへの投資における投資家のprotectionとしてどのような条項が含まれるか、近時の傾向を把握する上で興味深い。

2. 概要
Fenwick Reportの概要は以下のとおり。

  • かなりしっかりしたdownside protectionが設けられることが一般的。具体例としては、
    • Liquidation Preferences: 100%(うち回収可能金額は、投資金額 x 1: 97%、multiple: 3%)
    • IPO Protection(自己が投資したラウンドでのvaluationよりも低いvaluationでのIPOについてのprotection): 約30%
    • Down-priced roundにおけるprice protection(次回以降の資金調達で、自己が投資したラウンドよりもvaluationが低くなった場合に、普通株式への転換価格の調整を受ける権利): 100%(なお、調整方法はいずれもWeighted average)
  • Downside protectionに比して、upside benefitsは限定的。具体例としては、
    • Participating Preferred(Liquidationの際、まず①Liquidation preferencesの支払を受け、その後更に、②残余金額につき、普通株式に転換したとみなしてpro rataでの支払を受ける権利): 5%
  • 上記傾向(しっかりしたdownside protections、限定的なupside benefits)は、later stageの投資家と、創業者・early stageの投資家間の利益相反を生み出す可能性がある。
    • 例えば、post-money valuationが$10B、投資金額$1Bで投資した投資家は、一般的なliquidation preferences(投資金額 x 1 、participationなし)であれば、IPO・M&A等のexitでのvaluationが$1B-$10Bの間のいずれの金額であっても回収可能金額は変わらない($1B、upside benefitsなし)。これに対し、創業者・early stage投資家は例えば$8Bのexitでupside benefitsを得られる可能性がある。このような場合、$8Bのexitのチャンスがあった場合、創業者・early stage投資家はこれを望むが、later stageの投資家は望まない($10B超のexitを望む)こととなる。


3. 詳細
Fenwick Reportや一般的な解説資料をもとに、preferred sharesにおける主要な投資家のprotection(各条項の概要の解説)、近時のunicornsへの投資における傾向をまとめた。
(なお、主要条項の解説は一般的な解説資料に基づく概要の解説にとどまり、詳細は全米ベンチャーキャピタル協会雛形等を参照されたい。)

(1)主要な条項(Fenwick Reportによるデータがあるものを中心に)

条項説明一般的な解説14.4-'15.3 Unicorns
(Fenwick Report)
Liquidation Preferences会社のliquidationの場合に、優先株式の投資家は普通株主によりも優先して一定金額を回収できるという権利。
Liquidation:会社の清算・解散・事業の終了、合併、全資産又は実質的に全ての資産の売却等を含む。
投資家は、回収可能金額・valuation等を比較し、①liquidation preferenceによる回収又は②普通株式への転換を選択することとなる。
100%
 (1) 回収可能金額
 投資金額x1 97%
 Multiple(投資金額よりも多い) 3%
 (2) 優先順位
Liquidation preferencesの支払に関する、優先株主間(Series A vs B vs C, etc)の優先順位
 新しいラウンドから優先的に支払 19%
 全優先株主平等でpro rataでの支払("pari  passu") 81%
Dividend Preferences取締役会が配当決議をした場合に、一定利率による配当を受領する権利。
利率:6-8%/年程度が一般的。
通常VCは配当決議がなされることを期待するものではないが、税務上の観点からは有効な規定(税務上、優先株式が普通株式よりも1株あたり価格が高いことを説明する必要あり)
N/A
Cummulative Dividendある年又はQに配当が支払われなかった場合、一定利率での配当受領権が翌年又は翌Q以降に繰り越され累積される。
Liquidation preferencesでの回収可能金額が、①投資金額 x1又はMultiple + ②累積された配当金額となる。
投資家にとって、投資金額につきmarket rate of returnを回収できるという機能。
0%
Participating PreferredLiquidationの際、まず①Liquidation preferencesの支払を受け、その後更に、②残余金額につき、普通株式に転換したとみなしてpro rataでの支払を受ける権利。
①+②の合計金額につきCapが設けられる場合もある。例えば投資金額x3等。
5%
Automatic Conversion一定事由が発生した場合、自動的に普通株式に転換。
一定事由:優先株主の過半数又は2/3以上の同意、IPO等
通常ありN/A
IPO Protection自己が投資したラウンドでのvaluationよりも低いvaluationでのIPOについてのprotection約30%
 (1) Valuation
 IPO時の普通株式への転換は、valuationが一定金額以上である場合に限定される。 16%
 a. 自己が投資した時点におけるvaluationと同額以上である場合に限定 5%
 b. 自己が投資した時点におけるvaluationよりも高いvaluationを下限に設定(投資家のIPO時の利益確保) 11%
 (2) Additional Shares IPO時のValuationが一定金額(通常、自己が投資した時点におけるvaluation)未満である場合には、追加の株式発行を受けることができる。 14%
Antidilution Provisions投資家が自己の持株比率を維持する(dilutionを防ぐ)権利。
(2)(3)は役員・従業員に対する株式・ストック・オプション発行等の場合は除外されるのが通常。
 (1) Structural   Antidilution 株式の現物配当、株式分割、株式併合等の場合に、持株比率を維持する権利通常あり N/A
 (2) Preemptive Right and Right of First Refusal 将来の第三者に対する増資の場合に、同価格・pro rataで自己も増資を受けることができる権利。 N/A
 (3) Price Protection
 次以降のラウンド(down-priced round)における1株あたり価格が、自己が投資したラウンドよりも低くなった場合に、普通株式への転換価格の調整を受ける権利 100%
 a. Full Ratchet
 転換価格が、当該後のラウンド(down-priced round)の転換価格と同額に調整される。
 後のラウンドの規模に関わらず転換価格の調整がなされ、普通株主は大規模なdilutionを受けてしまうためunfairと言われている。
滅多にない 0%
 b. Weighted Average
 各ラウンドの規模・金額を踏まえて転換価格の調整を行う。以下の計算式が用いられる。

新転換価格=旧転換価格 X A/B
A:
発行済株式総数(新規発行前) X 新規投資金額 /旧転換価格
B:
発行済株式総数(新規発行前)+新規発行株式総数
一般的 100%
 (4) Pay to Play 投資家が、当該後のラウンド(down-priced round)において、プロラタで追加投資する場合に限り、(3)のPrice Protectionを認める。 N/A
Super Voting Stock普通株式が2種類あり、一方の普通株式(super voting stock)に、他方よりも多くの議決権を与えている。例えば、通常普通株式は1株1議決権だが、super voting stockは1株10-20議決権等。IPO後においても会社のcontrolを維持することが可能となる。22%
 付与対象者
 創業者・マネジメントのみ 8%
 創業者・マネジメント及び初期投資家 6%
 創業者・マネジメント及びIPO前の全投資家 8%

(2) その他の条項(Fenwick Reportによるデータなし)

条項説明一般的な解説
Redemption Rights会社に対して株式の買取を請求できる権利。投資家のput option(exit機会確保)。
期間:権利行使可能期間を制限する場合あり(投資から5年後以降等)。
買取価格:①liquidation preferencesで受領可能な金額、②fair market value等。
一般的ではない
Conversion Rights優先株式を普通株式に転換できる権利。
通常いつでも転換可能。
転換価格:当初は優先株式1株=普通株式1株。その後一定のイベントに応じて転換価格を調整。
通常あり
Voting Rights一定の重要事項の決定には、優先株主の同意が必要。
同意必要事項
定款変更、優先株式等の新規発行、自己の優先株主としての権利に変更を及ぼす事項、自己株取得等一般的
Liquidation(会社の清算・解散・事業の終了、合併、全資産又は実質的に全ての資産の売却等)、発行可能株式総数増加、取締役の人数変更等場合により
投資、子会社設立、債務負担、貸付、一定金額以上の設備投資等(ローン契約のcovenantsに含まれるような事項)一般的ではない
Board SeatLead investorはboard seatを要求するのが通常。他のVCも要求する場合もある。
Registration Rights
(1) Demand RightsIPOに必要なSEC Form S-1のfilingを要求する権利。IPOを強制できるという強い権利であり、行使できる場面が限定されるのが通常。一般的ではない
(2) S-3 Rights従前一定要件を満たして上場していた会社の再上場時に必要なSEC Forn S-3のfilingを要求する権利。一般的ではない
(3) Piggyback rights会社による公募等の際に、これに参加して自己の株式を売却できる権利。
但し、IPOの際には、証券会社の裁量によりcutbackが可能という留保が付されるのが通常。IPO以外の場合でも、証券会社の裁量により対象株式数を減少できるという留保が付される場合がある。
Information Rights投資家が会社の経営等に関する一定の情報を入手できる権利
対象となる情報
月次財務諸表、年次監査済財務諸表、年次予算等(基礎的な財務情報)一般的
①会計監査人から取締役会へのletter(会計監査結果、内部統制の脆弱性の有無等を含む)
②実地調査、役員・従業員へのインタビュー
③取締役会への出席(オブザーバー)
一般的ではない
Tag Along Rights/Co-sale Rights事業上keyとなる創業者が保有株式を第三者に売却しようとする場合に、投資家が自己の保有株式も同時に売却することを請求できる権利。通常売却する株式数はプロラタ(創業者が自己保有株式のうち50%を売却するなら投資家も自己保有株式のうち50%の売却を請求可)、他の売却条件(1株あたり譲渡価格等)は同一となる。場合により
Drag Along Rights投資家が自己保有株式を第三者に売却しようとする場合に、創業者に対しても、プロラタ・同一の売却条件で保有株式を当該第三者に売却することを請求できる権利。一般的ではない