2015年7月21日火曜日

SAFE(概要)

1. はじめに
Y CombinatorのパートナーPaul Grahamにより、2013年12月に提唱されたSAFE(Simple Agreement for Future Equity) 。近年シリコンバレーのseed段階のスタートアップへの投資手段として使われることが増えてきている(Y Combinator卒業生の大半はSAFEによりseedの資金調達を行うと言われている) 。
Simple Agreement for Future Equityという名が示すとおり、投資家はその投資と引き換えに、後の資金調達等の一定の事象の発生の際に株式を取得する権利を得るというものである。
SAFEの特徴としては、以下があげられる。
①Convertible noteとの相違点
  • Convertible noteはdebtであり、法令により利息・満期を設けることが要求される。満期には返済又は延長合意が必要となり、場合によってはスタートアップを倒産に追い込むリスクが生じる。また、利息によりconversionの際の計算も複雑になる。
  • これに対しSAFEはDebtではないため、利息・満期はなく、上記諸問題が生じない。
②その他の特徴
  • 合意内容がシンプル(重要な交渉ポイントはValuation Capの金額等に限定される)であり、会社・投資家双方にとり交渉の時間・手間を省略できる。
  • 雛形を使用すれば合意の確実性・スピードが高まり、会社・投資家双方のトランザクション・コストを軽減できる。

2. SAFEの解説(概要)(なお、詳細な解説は順次掲載予定。)
YCホームページで以下の4パターンのSAFEの投資契約書の雛形が公開されている。
(a)SAFE: Cap, no Discount
(b)SAFE: Discount, no Cap
(c)SAFE: Cap and Discount
(d)SAFE: MFN (Most Favored Nation clause), no Cap, no Discount

いずれの雛形も基本的な構造は共通であり、以下の各イベントが発生した場合の投資家の権利が規定されている。
①Equity Financing: 次ラウンドの資金調達
投資家は次ラウンドで発行される優先株式を取得する。株式数はSAFEでの投資額÷1株あたり価格となるが、1株あたり価格が各雛形により異なる。

②Liquidity Event:COC(過半数の株式譲渡・合併等による支配権の移動)又はIPO投資家は、以下のいずれかを選択できる(投資金額・会社の残資産(回収可能金額)と買収・IPOでのvaluation等を勘案し、選択を行うこととなる)。
(1)SAFE投資金額の返還
なお、SAFEの全投資家へ全額を返還する十分な資産がない場合には、投資金額に応じたプロラタで返還される。
(2)普通株式の取得
株式数はSAFEでの投資額÷1株あたり価格となるが、1株あたり価格が各雛形により異なる。

③Dissolution Event:会社の解散・清算・事業の終了
SAFE投資金額の返還。株主に対する財産の分配よりも優先して返還を受けられる。
なお、SAFEの全投資家へ全額を返還する十分な資産がない場合には、投資金額に応じたプロラタで返還される。

その他の主要な条項としては、
SAFEの有効期間:
上記のEquity Financing、Liquidity Event、Dissolution Eventのうち、一番先に起こったものによる株式発行又はSAFE投資金額の返還の時点までとなる。よって、これらのイベントが起こらない限りはSAFEは終了せず、一般的なdebtのような返済期限はない(会社としては返済や延長合意の必要がなく便宜)。

Pro Rata Rights Agreement:
SAFE雛形には、会社と投資家がPro Rata Rights Agreement(投資家に対し、Equity Financingの後に起こる証券の私募においてプロラタで購入する優先先買権を付与する旨の契約)を締結する旨の条項が含まれている。会社側がかかる権利を投資家に与えたくない場合には、該当条項の削除が必要。

各雛形の主要な相違点は以下のとおり。各雛形のうちどれを使うかについては、会社・投資家間のバーゲニングパワーが影響すると考えられる(投資家が強い場合には(c)の雛形が用いられる等)。

(a)SAFE: Cap, no Discount(b)SAFE: Discount, no Cap(c)SAFE: Cap and Discount(d)SAFE: MFN, no Cap, no Discount
Equity Financing
:次ラウンドでの優先株式の1株あたり価格
次ラウンドでのPre-money valuationがValuation Cap以下の場合には、次ラウンド投資家と同条件での投資。
Pre-money valuationがValuation Capを超える場合には、Valuation capをベースに計算され、次ラウンド投資家よりも有利。
1株あたり価格×割引率となり、割引率の分次ラウンド投資家よりも有利。Valuation Capを適用した場合又はDiscount Rateを適用した場合のいずれか低い方の価格。(a)(b)のいいとこ取りの形。次ラウンド投資家と同条件での投資。
Liquidity Event
:②普通株式の取得を選択した場合の、1株あたり価格
Valuation Cap÷Liquidity Event直前の完全希釈化ベースでの全株式数
Valuation capが基準となるため、Liquidity Event時点での会社のvaluationがValuation Capを超えている場合には投資家にとり有利となる。
Liquidity Event時点における普通株式の公正市場価格× Discount Rate
Discount Rateの分有利。
Liquidity Event時点における普通株式の公正市場価格× Discount Rate
Discount Rateの分有利。
Liquidity Event時点における普通株式の公正市場価格
その他最恵国待遇条項(Most Favored Nation Clause)
将来このSAFEよりも有利な内容での他のSAFE、convertible note等の転換可能証券(Subsequent Convertible Securities)が発行された場合には、このSAFEをSubsequent Convertible Securitiesの内容と同一に書き換えられるというInvestorのプロテクションあり

3. まとめ
上記のとおり、SAFEはConvertible noteと異なりdebtではないため、利息・満期がない点においてスタートアップに有利である。また、投資契約書の基本的な構造もいたってシンプルで、交渉の手間・時間の省略、トランザクションコストの削減に資する。今後はよりその利用が広まり、シリコンバレーにおいてConvertible noteと並ぶseedラウンドの資金調達方法となる可能性もある。