2015年9月14日月曜日

Airbnb・民泊ビジネスは違法? (1) - 日本の現行法規制等

1. はじめに
Airbnb等を利用した民泊ビジネス(個人がマンションの空室等を、観光客等に向けて有料で提供するビジネス)については、近時注目が高まっているところかと思います。
もっとも、近時の報道において、日本でのAirbnbの登録件数はこの1年で3倍になったが(20158月現在で約13,000件)、多くは旅館業法上必要となる許可を得ていないことから、政府が実態調査に乗り出したとされています。
民泊ビジネスは違法なのか、旅館業法の規制の概要 等について記載してみました。

2. 旅館業法の規制
(1)「旅館業」の定義

旅館業法上、「旅館業」を営むには都道府県知事の許可が必要とされています。
「旅館業」とは「①宿泊料を受けて②人を宿泊させる③営業」とされています。

①「宿泊料」は名目のいかんを問わず、実質的に寝具や部屋の使用料とみなされるものは含まれるとされています(例:休憩料、寝具賃貸料、寝具等のクリーニング代、光熱水道費、室内清掃費等)。
②「宿泊」とは「寝具を使用して施設を利用すること」とされています。
なお、「宿泊させる」場合には旅館業の対象となりますが、アパートの賃貸・間借り部屋などの「賃貸借」は、旅館業法の対象外となっています(賃貸借の場合は許認可は不要ですが、賃貸借契約の条件等については借地借家法の対象となります)。
「賃貸借」ではなく「旅館業」にあたるのは、判例等によれば、(i)宿泊者が生活の本拠を置いていない(住んでいるとはいえない)場合であって、(ii)宿泊期間が1ヶ月未満の場合とされています。
かかる「賃貸借」と「旅館業」の違いについては、Yahoo!トラベルが2014年4月に開始した軽井沢の高級別荘レンタルサービスを開始1ヶ月で停止したというニュースでも話題になったところです。(運営側は賃貸借であり問題ないとの見解であったが、行政側は賃貸借名義であっても実態として旅館業の問題があるとしたもの。)

Airbnbの場合は通常、①有料で、②ベッド等がある部屋を提供するのが一般的で、かつ上記判例等を前提とすれば「賃貸借」とはいえない(ゲストが生活の本拠を置いている/住んでいるものではなく、期間も1ヶ月未満が通常)と考えられます。
よって①②の要件は通常満たすと考えられます。

ここで③が問題となりますが、「営業」の定義は法令上明確に定められていません。様々な業法に関する判例においては、「反復継続の意思」をもって行われている場合は「営業」にあたるとされており、(i)社会通念上「事業の遂行」とみることができるか、(ii)不特定多数の者を相手に行われているか等を考慮して、「反復継続の意思」があるかを判断するとされています。

(2)「旅館業」にあたる場合の規制
「旅館業」にあたる場合、都道府県知事の許可が必要となりますが、許可の取得に際しては、所定の構造設備基準に従っていることが必要とされています。また、旅館業の運営は、都道府県の条例で定める換気、採光、照明、防湿、清潔等の衛生基準に従う必要があり、宿泊者名簿の作成・フロントの設置等が義務付けられています。
無許可で旅館業を経営した場合には、刑事罰(6月以下の懲役又は3万円以下の罰金)も設けられています。報道によれば、20145月に東京と足立区で住宅を宿泊施設として提供していた英国人男性が逮捕されたという事例も出ているとのことです(もっとも、足立区保健所の10回にわたる行政指導を無視したとの経緯があったとされており、かなり悪質な事案だったといえそうです)。

3. Airbnbにおける旅館業法の適用


a. (会社としての)Airbnb

Airbnbは、規約上、あくまで自社はplatformの提供者に過ぎず、物件を提供するものではないとしています。このことからすれば、Airbnbが自ら旅館業を営んでいるとはいえないと考えられます。もっとも、下記のとおり、ホストが旅館業法違反となるような場合には、違反行為を黙認・助長しているとして問題視される可能性はあるといえます。

b. ホスト
Airbnbのホストについては、上記③「営業」にあたるかが問題となります。
例えば、(a)長期休暇の際に旅行で家をあけることになったので、試しにAirbnbで貸してみようというような場合には、「営業」にあたらないと考えられます。
しかし、(b)Airbnb専用の物件を所有又は借りており、不特定多数のゲストに対して何度も・かつ継続してAirbnbで貸しているような場合には、「反復継続の意思」があり「営業」にあたるとされる可能性はあるといえます。無許可営業で旅館業法違反とされた場合に、実際にどのような処分がなされるかは、政府や都道府県の方針次第ですが、冒頭で紹介したように政府が民泊ビジネスを問題視して実態調査を始めたという報道があることからすれば、今後行政指導が増えて行く可能性もあるかもしれません。最悪の場合には刑事罰という可能性もありますが、上記2014年5月の事例のように、行政指導を何度も無視するような悪質な事例が対象となるのが通常と考えられます。

さらに、上記(a)と(b)の事例の中間にあたるような場合にどうなるかは、現行法上は明確ではありません。例えば、出張等で家を不在にすることが比較的多い人が出張中にAirbnbで貸す場合や、GWや年末年始等の観光シーズンに自宅の1室をAirbnbで貸す場合 等。
余剰リソースの有効活用というシェアリングエコノミーの社会的有用性については以前の投稿でも述べましたが、上記のような場合はまさに典型的な事例といえるかもしれません。ホストとしては空室の有効活用・ゲストとしてはホテル等より安価での宿泊が可能となります。上記事例において、空室のシェアリングエコノミーの実現が可能になるよう、現行法の改正等による明確化が望まれます。
そもそも旅館業法の趣旨は、「旅館業の健全な発達」「利用者の需要の高度化及び多様化に対応したサービスの提供を促進」「公衆衛生及び国民生活の向上に寄与すること」とされています。公衆衛生の観点での必要性はあるとしても、Airbnbのレーティング(ゲストからの評価)等の仕組みでも一定の自然淘汰がなされていくと考えられます。また、「利用者の需要の高度化・多様化に対応したサービスの提供」という意味では、正にAirbnbの仕組みは、ホテル・旅館不足を補い、地元の人の家に泊まってみたい等のゲストの新しいニーズをかなえるものといえます。また、ホテル・旅館に泊まるという体験と、人の家の一室に泊まるという体験とが異質なものであることや、宿泊施設の不足・宿泊料金の高騰が騒がれている現状からすれば、既存のホテル・旅館の過剰な保護は望ましくないという議論もあるかと思います。シェアリングエコノミーという新しい発想に合わせた法規制の整備が必要といえるのではないでしょうか。

4. まとめ
上記のとおり、Airbnbのホストが「反復継続の意思」をもって行っており「営業」にあたるとされる場合には、旅館業の許可を取得することが必要であり、無許可営業の場合は違法とされる可能性があることになります。
もっとも、かかる旅館業法の規制については、東京オリンピック開催に向けて高まる外国人観光客の滞在のニーズに応えるため、政府による規制緩和政策が進められています。
かかる規制緩和の具体的な内容や、賃貸借契約上の取り扱い等について、次回記載したいと思います。