2015年9月20日日曜日

Airbnb・民泊ビジネスは違法?(2) - 規制緩和動向、賃貸借契約等

1. はじめに
前回の投稿で、Airbnb等を利用した民泊ビジネスについて、「反復継続の意思」をもって行っており「営業」にあたるとされる場合には、旅館業法上違法とされる可能性があると書きました。
もっとも、かかる旅館業法の規制について、2020年の東京オリンピック開催に向けて高まる外国人観光客の滞在のニーズに応えるため、政府は一部の地域(国家戦略特区)において旅館業法の規制を緩和すると発表しました。

2. 規制緩和政策の具体的な内容

(1)国家戦略特別区域法
かかる旅館業法の規制緩和政策として、2015715日付で国家戦略特別区域法が施行されました。同法では、「外国人滞在施設経営事業」として内閣総理大臣の認定及び都道府県知事の認定を受けた場合には、旅館業法の許可は不要とされています。

「外国人滞在施設経営事業」といえるためには、以下の①〜④を含む要件を満たすことが必要とされています。
①「国家戦略特別区域」内であること
平成2651日に、以下の6区域が指定されています。
  • 東京圏(東京都千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、江東区、品川区、大田区及び渋谷区、神奈川県並びに千葉県成田市)
  • 関西圏(大阪府、兵庫県及び京都府)
  • 新潟県新潟市
  • 兵庫県養父市
  • 福岡県福岡市
  • 沖縄県
 ②外国人旅客の滞在に適した施設であること
具体的には、施設の各部屋は以下を含む要件を満たすことが必要とされています。
  • 床面積は、原則25㎡以上であること。
  • 出入口・窓は、鍵をかけることができること。
  • 適当な換気、採光、照明、防湿、排水、暖房及び冷房の設備を有すること。
  • 台所、浴室、トイレ・洗面設備を有すること。
  • 寝具、テーブル、椅子、収納家具、調理のために必要な器具又は設備、清掃のために必要な器具を要すること。
710日までの範囲内、かつ、都道府県の条例で定める期間以上の滞在の賃貸借契約であること
④施設の使用方法に関する外国語を用いた案内、緊急時における外国語を用いた情報提供その他の外国人旅客の滞在に必要な役務を提供すること

7日未満の短期滞在では、上記③の要件は満たしません。また、現状Airbnb等で民泊ビジネスを行っているホストのうち、例えば自分のマンションの居室のうちの1ベッドルームのみを提供しているようなケースでは、②の要件を満たさない場合が多いと考えられます。こうしてみると、現状Airbnb等で提供されている物件の実態に照らせば、上記要件を全て満たす場合はかなり限定されてくると思われます。

(2)都道府県の条例
さらに、上記③のとおり、滞在期間については、710日までの範囲内かつ都道府県の条例で定める期間以上であることが必要とされています。しかし、本記事執筆時点において、かかる条例を実際に成立させた都道府県はまだ存在しておらず、上記緩和政策に基づいて適法に外国人滞在施設経営事業を行うことはまだできないというのが現状です。
上記緩和政策に基づき、国家戦略特区において民泊のマッチングサービスを提供予定だったスタートアップ「とまれる」(20145月にはエイブルと業務提携)も、条例が制定されていないため、いまだサービスを開始できていないとのことです。

3. 賃貸借契約
自己の所有物件ではなく賃借物件をAirbnb等で提供する場合には、旅館業法の問題に加えて、賃貸借契約上の問題も生じることとなります。
ほとんどの賃貸借契約においては、無断転貸は禁止とされており、物件を第三者に使用させた場合には、期間や回数等を問わず「転貸」にあたる(すなわち、1Airbnb でゲストを1泊させた場合には、即「転貸」にあたる)とされていると考えられます。そして、無断転貸を行った場合には、賃貸人(大家さん)は賃貸借契約を即時解除できるという条項が入っていることが一般的です。

よって、大家さんの許可を得ずに賃借物件をAirbnbで提供した場合には、無断転貸にあたるとして賃貸借契約を解除されてしまう(追い出されてしまう)リスクが存在することになります。
賃貸借契約締結時に、Airbnb等での提供を可能とできるよう大家さんと交渉することも考えられますが、現状の日本(特に東京等の首都圏)の実態としては受け入れられない場合が多いのではないかと思います。Airbnbでの収入を一部レベニューシェアする等の条件で転貸への承諾を得ることも考えられますが、これも現状では一般的に受け入れられるものではないと考えられます。
将来Airbnb等のサービスがより広く普及し一般化した場合には、上記レベニューシェア等の仕組みを受け入れる不動産賃貸業者・大家も現れてくるかもしれません。

4. マンション規約
マンションの場合は、所有・賃貸の場合の両方において、マンション規約との関係も問題となります。特に首都圏のタワーマンション等においては、マンションの規約においてAirbnb等での貸し出しは禁止と明記されている場合もあるかもしれません。また、マンション規約に違反した場合には是正を要求できる、それでも是正しない場合には最終的には退去を求められる等の規定も設けられている可能性があります。

5. 税制上の取り扱いについて
なお、Airbnbで得た収入については雑所得にあたり、Airbnbによる収入ー経費の金額が年間20万円を超える場合には、確定申告が必要とされています。これを給与所得等の自己のその他の所得額と合算して総所得額を計算し、税率が決められることとなります。

6. まとめ
上記のとおり、旅館業法の規制については、特区における規制緩和政策が進められているものの、床面積等の施設の条件・宿泊期間の制限(710日以上)等が厳しく、緩和政策を利用できる事例は限定的です。さらに、都道府県条例が制定されるまでは、適法に緩和政策を利用することはできないこととなります。
外国人観光客の増加に対してホテル等の宿泊施設不足・宿泊料金の高騰が問題となっており、事態は東京オリンピックに向けて更に悪化していくと考えられます。本来シェアリングエコノミーの発想はかかる状況を解決する有効な手段となり得るはずですが、現状の緩和政策の下では、適法として許容される範囲があまりに狭すぎるように思われます。前回の投稿でも述べた、そもそも旅館業法の規制をシェアリングエコノミーという新しい発想にそのまま適用することへの疑問も踏まえ、もう一歩進んだ規制緩和がなされることに期待したいと思います。
また、法規制の問題とは別途、賃貸借契約・マンション規約の問題も生じる点は注意が必要です。