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2016年2月1日月曜日

シェアリングエコノミーと法社会制度(ハッカソンプレゼン資料)

2016年1月31日に開催された、法社会制度ハッカソンβ(シェアリングエコノミー編)にて、イントロダクションのお話をさせていただきました。その際に使用したスライドをアップしています。
https://www.facebook.com/events/1635587320037764/
http://peatix.com/event/142057
現行のシェアリングエコノミー(ホームシェア、ライドシェア、その他)に関わる法制度の概要や規制緩和の動向、海外の法制度等について、概要をスライドにまとめたものです。
































2016年1月25日月曜日

カーシェアにまつわる法規制ーシェアリングエコノミーに共通する現行法規制の根本的な問題とは?

2015年に引き続き、本年も話題となりそうなシェアリングエコノミー。ホームシェアやライドシェアと並び、「カーシェアリング」についても注目が集まっています。

カーシェアって?
カーシェア(カーシェアリング)とは、個人の自家用自動車を他の人が借りて使用できるサービス・プラットフォームです。ドライバーが付いて運転をしてくれるライドシェア(Uber等)とは異なり、純粋に車だけをシェアするサービスです。
車の所有者は、自分が使っていない時でも車という資産を有効活用して収入を得ることができます。借りる人は、車を所有するのに比べて安い費用でこれを使用することができ、また新たな交通手段の選択肢にもなります。
日本では、2015年9月にDeNAが開始し話題となった「Anyca」や、「CaFoRe」(カフォレ)等のサービスがあげられます。

カーシェアに関連する法規制 ー「有償貸渡事業」
道路運送法上、国土交通大臣の許可を受けなければ、①自家用自動車を②「業として」 ③「有償で」④貸し渡してはならないとされています。
レンタカー事業者は、かかる有償貸渡事業の許可を受けてレンタカー事業を営んでいます。

C to Cのカーシェアも、有償貸渡「事業」にあたるの?
個人が自分の車をC to Cで貸し出すカーシェアの場合も、上記有償貸渡事業の許可が必要となるのでしょうか。
実はこの点は、以前の投稿においても記載した、ホームシェア(旅館業法)・ライドシェア(道路運送法)と全く同じ問題が出てくることになります。
どのような場合に、上記②「業として」にあたるのか、法令上明確な定義は定められていません。判例上、「反復継続の意思」をもって行う場合には、「業として」にあたると解されています。
よって、個人が自分の車を貸し出すカーシェアの場合も、何回も・かつ継続して貸し出すような場合には、「業として」にあたり、無許可であれば道路運送法の違反とされる可能性があるということになってしまいます。

適法にカーシェアを実現する方法?
それでは、現在日本でカーシェアのプラットフォームを提供している「Anyca」や「CaFoRe」においては、どうやって上記法規制の問題をクリアしているのでしょうか。

①「Anyca」の場合 ー 「共同使用契約」
先ほどの、有償貸渡事業には許可が必要という道路運送法の規定ですが、例外として、以下の場合には許可が不要とされています。
・車を借りる人が、借りる自動車の「使用者」である場合(すなわち、所有者と借りる人が車を共同使用している場合)

Anycaでは、上記例外を利用して、許可が不要と整理しています。すなわち、車の所有者と借りる人の間で「共同使用契約」を締結することとしています。
「共同使用契約」については、利用規約上、以下のような条件が定められています。
・「共同使用契約」において、車の所有者と車を借りる人は、車の取得・維持に必要な実費等を共同で負担する。
・「共同使用契約」の有効期間は6ヶ月以上とする。
・個人間取引を前提とするので、法人の利用はできない。
・共同使用料は、車の取得・維持に必要な実費が所有者と借りる人の間で按分される範囲内で設定することが必要。車の購入金額・購入時走行距離・年間維持費を入力すると、設定可能な共同使用料の上限を表示。これを超える共同使用料の設定はできない。

②「CaFoRe」の場合 ー「有償で」貸し渡しているものではない
CaFoReのサイトや利用規約においては、同サービスは、無償での自動車の貸し借りのプラットフォームであり、有償で自動車を貸し借りするものではないと整理されています。
CaFoReで貸し出されている自動車にはそれぞれ「価格」が設定されているのですが、これは自動車を貸すことについての対価ではなく、自動車の貸出可能な日時等の自動車に関する情報や、出品者に関する情報、出品者との独占交渉権に対する対価であるとされています。

現状においては、許可が不要といえるかはいずれも不明確
①、②とも、上記方法によれば許可が不要であることが明確、というわけではありません。
Anycaについては、サービス開始から4ヶ月が過ぎた現在も、国交省が「合法かどうか調査中」という報道がなされています。上記報道によれば、国交省の見解は、車を借りる人の認識が「共同使用」なら合法、「借りる」なら違法であるが、Anycaで車を借りる人の認識が実態としてどちらなのかを見極めるのに時間がかかっている(すなわち、形式的に期間6ヶ月以上の「共同使用契約」を締結していても、実態としては、数日車を借りるという認識であって、レンタカーと変わらないのではないか、と懸念している)とされています。
上記報道においても指摘されているとおり、お金を払って車を借りるという行為は全く変わらないのに、借りる人の認識が「共同使用」なのか「借りる」なのかで許可の要否が変わるという法律の規定自体が不自然といえるかもしれません。
CaFoReについても、お金を払って車を借りているのは同じでも、そのお金を、車を借りることの対価というか、車についての情報や独占交渉権の対価というかによって、許可の要否が変わってくるのは不自然という指摘がなされる可能性はあるかと思います。

抜本的な解決ができるか ー シェアリングエコノミーに共通する問題意識
上記のとおり、現行法上「業として」の定義はあいまいであり、個人が自己の車を貸し出すカーシェアの場合も、道路運送法違反とされてしまう可能性があるといえます。
そもそも、旅館業法、道路運送法等の「業法」規制は、基本的にはB to Cを念頭に置いて制定された規制といえます。シェアリングエコノミーは、自己の余剰リソースを活用したい個人が、別の個人に対してこれを提供するというC to Cの取引です。この場合に、B to Cを前提とした既存の「業法」規制をそのまま適用するのが正しいのかは、疑問の余地もあるところかと思います。
カーシェアリングにおいても、他のシェアリングエコノミーと同様、冒頭で述べたメリットの実現と、問題点・課題(利用者の安全確保)の解決とのバランスの実現が必要になってくるところかと思います。
ホームシェアやライドシェアと並んで、法規制のあり方についての今後の議論に注目したいところです。

2015年10月14日水曜日

ライドシェア(Uber等)に関する法規制

1. はじめに
アメリカをはじめ世界で絶大な人気を誇り、時価総額$50B(約6兆円)超とも噂されるUberですが、2014年8月より東京都で本格的にサービスを開始しています。もっとも福岡では、2015年2月にテストを開始した「みんなのUber」につき、国土交通省からいわゆる「白タク」に該当する可能性が高いとして指導を受け、同年3月にはサービスを中止しています。Uber等のライドシェアサービスに関連する法規制や、いわゆる「白タク」とは何なのでしょうか。

2. 道路運送法の規制の概要
道路運送法上、「旅客自動車運送事業」を営むには許可の取得が必要とされています。
「旅客自動車運送事業」とは、①他人の需要に応じ、②有償で、③自動車を使用して旅客を運送する事業をいうとされています。典型的な事例がタクシーです。
また、許可を取得したタクシー事業者の車(タクシー)以外の自家用自動車は、有償で運送の用に使ってはならないとされています。
上記許可を得ずに、自家用自動車で有償で運送を行う行為が、いわゆる「白タク」として道路運送法上違法とされます。

現在東京で行っているUberのサービスは、上記規制の範囲内で行われています。すなわち、適法に許可を保有しているタクシー業者と提携し、Uberは提携事業者とユーザーを結ぶ仲介業者として配車サービスを行うこととしています。
なお、Uber自身は、かかる仲介事業を行うことに必要となる第2種旅行業の許可を取得しています。
それでは、福岡でのサービスでは何が問題となったのでしょうか。

3. 福岡でテストを開始した「みんなのUber」の概要
2015年2月に福岡でテストを開始したみんなのUberは、一般から募集したドライバーの自家用車を配車するサービスでした。東京でのサービスは許可を保有している提携タクシー事業者の車を配車していたのに対し、「みんなのUber」でのドライバーは許可を保有していなかったことから、問題とされたものです。
もっとも、報道によれば、「みんなのUber」を利用するユーザーは無料であり、Uberからドライバーに対して、「データ提供料」として走行時間に応じた対価を支払っていたとのことです。ユーザーは無料でも上記②「有償」の要件を満たし、「旅客自動運送事業」として許可が必要になるのでしょうか。

4. ②「有償」の解釈
福岡のサービスで問題となった②「有償」の解釈ですが、例えばヒッチハイクのような完全にタダの場合には、許可は不要となります。それでは乗せてもらった人がガソリン代だけドライバーに支払ったような場合はどうでしょうか。
通達によれば、以下のいずれかの場合には「有償」にあたらず、許可は不要とされています。
①「好意に対する任意の謝礼」と認められる場合
予め運賃表等を定めてそれに基づき支払われる場合には、少額であってもこれにはあたらないとされています。
②金銭的価値の換算が困難・又は流通性が乏しい物が支払われる場合
具体例は自宅でとれた野菜(地方農家の場合)等とされており、現金はもちろん、商品券・貴金属等の換金性・流通性の高いものはこれにあたらないとされています。
③(i)当該運送行為が行われる場合にのみ発生する費用であって、(ii)客観的、一義的に金銭的な水準を特定できるものを負担する場合
通常はガソリン代、道路通行料、駐車場料金のみがこれに該当するとされています。人件費、車両償却費、保険料等は、(i)又は(ii)を満たさないため、これにあたらないとされています。
例えばライドシェアサービスの「のってこ!」は、ドライバーと相乗り希望者のマッチングプラットホームを提供していますが、上記通達に従い、「有償」にあたらず許可不要とされる範囲内でサービスを行っています。具体的には、ドライバーが相乗り希望者に請求できるのは、実費(ガソリン代、道路通行料、駐車場代)のみとされており、ドライバーが利益を得る目的でライド・シェアを行うことは禁止とされています。

5. 「みんなのUber」は「有償」?
報道によれば、国土交通省の見解としては、以下のような点から、実質的には「有償」であり、いわゆる「白タク」にあたる可能性が高いと判断したとのことです。
  • 顧客からドライバーへの報酬支払いはなくても、Uberからドライバーには報酬が支払われている。Uberからであれ、顧客からであれ、実態として何らかの形でドライバーに報酬が支払われる場合にはその運送は「有償」に分類される。
  • 「無償」といえるためには、実費としてガソリン代など最小限に留められるべき(上記4.③参照)。しかし、実際に支払われた金額については週当たり数万円に上る場合もあるとのことだった。月額にするとこれはもはや「職業ドライバー」の水準と変わりない。

また、ドライバーとの契約の相手方が日本法人ではなく欧州のUber関連会社であったこと、ドライバーの保険について曖昧だった点等も懸念点であったとされています。「ユーザーの安全性担保に疑問」「守るべきは、利用者」「利用者に不都合なことがあってはいけないというところに最終的には行き着く」という観点から、中止を求めたとされています。
かかる国土交通省からの行政指導を受け、Uberは「みんなのUber」を20153月で中止しています。
上記国土交通省の見解は、本当に「利用者」のためになるものといえるでしょうか。利用者の立場としては完全無料のサービスであったわけで、友人や家族の車に乗せてもらい送ってもらう感覚で、このサービスを利用してみたいというニーズもあったのではないでしょうか。

6. 終わりに
道路運送法上、①他人の需要に応じ、②有償で、③自動車を使用して旅客を運送する事業を(旅客自動車運送事業)を営むには許可取得が必要とされています。
Uberの東京でのサービスは、許可を得た提携タクシー事業者のタクシーを配車する点で上記規制に従ったものです。これに対し福岡の「みんなのUber」は、許可を有しない一般ドライバーの車を配車した点で、無許可でのいわゆる「白タク」として問題視されました。

もともとアメリカで始まったUberLyft等のライドシェアサービスは、車を持っており運転できる個人と、ライドを提供してほしい個人とをマッチングするというシェアリングエコノミーの発想で始まったサービスです。シェアリングエコノミーの社会的有用性については従前の記事でも記載したとおりですが、ライドシェアも、自分の車・空き時間というリソースを活用したい個人と、タクシー等の既存の交通手段よりも安い価格でライドを受けたい利用者の双方のニーズを叶えるものといえます。
現在の道路運送法の枠組みの下では、既存の許可を有するタクシー事業者の配車サービス(東京都でのUberのサービス)という形になってしまいますが、これでは本来のシェアリングエコノミーの発想を実現することはできません。自分の車・空き時間というリソースを有効活用したい個人(プロのタクシー運転手ではなく)のニーズを叶えることはできませんし、既存のタクシー事業者と提携する以上既存タクシーよりも安価とすることは難しいと考えられます。確かに利用者の安全確保は重要ですが、許可の取得(行政による監視)という既存の方法以外にも、安全確保が可能な方法は存在するように思われます。例えばアメリカのUberでは、Uberによる厳しい審査やレーティングシステム等により安全確保を図っており、これが現実に機能しユーザーの信頼を勝ち得ているからこそ、同社サービスの急成長が実現できたと考えられます。
規制改革会議においても、シェアリングエコノミーに関する規制緩和が議論されておりますが、現状ライドシェアに関する具体的な議論はまだなされていないようです。今後の展開に期待したいところです。

2015年9月20日日曜日

Airbnb・民泊ビジネスは違法?(2) - 規制緩和動向、賃貸借契約等

1. はじめに
前回の投稿で、Airbnb等を利用した民泊ビジネスについて、「反復継続の意思」をもって行っており「営業」にあたるとされる場合には、旅館業法上違法とされる可能性があると書きました。
もっとも、かかる旅館業法の規制について、2020年の東京オリンピック開催に向けて高まる外国人観光客の滞在のニーズに応えるため、政府は一部の地域(国家戦略特区)において旅館業法の規制を緩和すると発表しました。

2. 規制緩和政策の具体的な内容

(1)国家戦略特別区域法
かかる旅館業法の規制緩和政策として、2015715日付で国家戦略特別区域法が施行されました。同法では、「外国人滞在施設経営事業」として内閣総理大臣の認定及び都道府県知事の認定を受けた場合には、旅館業法の許可は不要とされています。

「外国人滞在施設経営事業」といえるためには、以下の①〜④を含む要件を満たすことが必要とされています。
①「国家戦略特別区域」内であること
平成2651日に、以下の6区域が指定されています。
  • 東京圏(東京都千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、江東区、品川区、大田区及び渋谷区、神奈川県並びに千葉県成田市)
  • 関西圏(大阪府、兵庫県及び京都府)
  • 新潟県新潟市
  • 兵庫県養父市
  • 福岡県福岡市
  • 沖縄県
 ②外国人旅客の滞在に適した施設であること
具体的には、施設の各部屋は以下を含む要件を満たすことが必要とされています。
  • 床面積は、原則25㎡以上であること。
  • 出入口・窓は、鍵をかけることができること。
  • 適当な換気、採光、照明、防湿、排水、暖房及び冷房の設備を有すること。
  • 台所、浴室、トイレ・洗面設備を有すること。
  • 寝具、テーブル、椅子、収納家具、調理のために必要な器具又は設備、清掃のために必要な器具を要すること。
710日までの範囲内、かつ、都道府県の条例で定める期間以上の滞在の賃貸借契約であること
④施設の使用方法に関する外国語を用いた案内、緊急時における外国語を用いた情報提供その他の外国人旅客の滞在に必要な役務を提供すること

7日未満の短期滞在では、上記③の要件は満たしません。また、現状Airbnb等で民泊ビジネスを行っているホストのうち、例えば自分のマンションの居室のうちの1ベッドルームのみを提供しているようなケースでは、②の要件を満たさない場合が多いと考えられます。こうしてみると、現状Airbnb等で提供されている物件の実態に照らせば、上記要件を全て満たす場合はかなり限定されてくると思われます。

(2)都道府県の条例
さらに、上記③のとおり、滞在期間については、710日までの範囲内かつ都道府県の条例で定める期間以上であることが必要とされています。しかし、本記事執筆時点において、かかる条例を実際に成立させた都道府県はまだ存在しておらず、上記緩和政策に基づいて適法に外国人滞在施設経営事業を行うことはまだできないというのが現状です。
上記緩和政策に基づき、国家戦略特区において民泊のマッチングサービスを提供予定だったスタートアップ「とまれる」(20145月にはエイブルと業務提携)も、条例が制定されていないため、いまだサービスを開始できていないとのことです。

3. 賃貸借契約
自己の所有物件ではなく賃借物件をAirbnb等で提供する場合には、旅館業法の問題に加えて、賃貸借契約上の問題も生じることとなります。
ほとんどの賃貸借契約においては、無断転貸は禁止とされており、物件を第三者に使用させた場合には、期間や回数等を問わず「転貸」にあたる(すなわち、1Airbnb でゲストを1泊させた場合には、即「転貸」にあたる)とされていると考えられます。そして、無断転貸を行った場合には、賃貸人(大家さん)は賃貸借契約を即時解除できるという条項が入っていることが一般的です。

よって、大家さんの許可を得ずに賃借物件をAirbnbで提供した場合には、無断転貸にあたるとして賃貸借契約を解除されてしまう(追い出されてしまう)リスクが存在することになります。
賃貸借契約締結時に、Airbnb等での提供を可能とできるよう大家さんと交渉することも考えられますが、現状の日本(特に東京等の首都圏)の実態としては受け入れられない場合が多いのではないかと思います。Airbnbでの収入を一部レベニューシェアする等の条件で転貸への承諾を得ることも考えられますが、これも現状では一般的に受け入れられるものではないと考えられます。
将来Airbnb等のサービスがより広く普及し一般化した場合には、上記レベニューシェア等の仕組みを受け入れる不動産賃貸業者・大家も現れてくるかもしれません。

4. マンション規約
マンションの場合は、所有・賃貸の場合の両方において、マンション規約との関係も問題となります。特に首都圏のタワーマンション等においては、マンションの規約においてAirbnb等での貸し出しは禁止と明記されている場合もあるかもしれません。また、マンション規約に違反した場合には是正を要求できる、それでも是正しない場合には最終的には退去を求められる等の規定も設けられている可能性があります。

5. 税制上の取り扱いについて
なお、Airbnbで得た収入については雑所得にあたり、Airbnbによる収入ー経費の金額が年間20万円を超える場合には、確定申告が必要とされています。これを給与所得等の自己のその他の所得額と合算して総所得額を計算し、税率が決められることとなります。

6. まとめ
上記のとおり、旅館業法の規制については、特区における規制緩和政策が進められているものの、床面積等の施設の条件・宿泊期間の制限(710日以上)等が厳しく、緩和政策を利用できる事例は限定的です。さらに、都道府県条例が制定されるまでは、適法に緩和政策を利用することはできないこととなります。
外国人観光客の増加に対してホテル等の宿泊施設不足・宿泊料金の高騰が問題となっており、事態は東京オリンピックに向けて更に悪化していくと考えられます。本来シェアリングエコノミーの発想はかかる状況を解決する有効な手段となり得るはずですが、現状の緩和政策の下では、適法として許容される範囲があまりに狭すぎるように思われます。前回の投稿でも述べた、そもそも旅館業法の規制をシェアリングエコノミーという新しい発想にそのまま適用することへの疑問も踏まえ、もう一歩進んだ規制緩和がなされることに期待したいと思います。
また、法規制の問題とは別途、賃貸借契約・マンション規約の問題も生じる点は注意が必要です。

2015年9月14日月曜日

Airbnb・民泊ビジネスは違法? (1) - 日本の現行法規制等

1. はじめに
Airbnb等を利用した民泊ビジネス(個人がマンションの空室等を、観光客等に向けて有料で提供するビジネス)については、近時注目が高まっているところかと思います。
もっとも、近時の報道において、日本でのAirbnbの登録件数はこの1年で3倍になったが(20158月現在で約13,000件)、多くは旅館業法上必要となる許可を得ていないことから、政府が実態調査に乗り出したとされています。
民泊ビジネスは違法なのか、旅館業法の規制の概要 等について記載してみました。

2. 旅館業法の規制
(1)「旅館業」の定義

旅館業法上、「旅館業」を営むには都道府県知事の許可が必要とされています。
「旅館業」とは「①宿泊料を受けて②人を宿泊させる③営業」とされています。

①「宿泊料」は名目のいかんを問わず、実質的に寝具や部屋の使用料とみなされるものは含まれるとされています(例:休憩料、寝具賃貸料、寝具等のクリーニング代、光熱水道費、室内清掃費等)。
②「宿泊」とは「寝具を使用して施設を利用すること」とされています。
なお、「宿泊させる」場合には旅館業の対象となりますが、アパートの賃貸・間借り部屋などの「賃貸借」は、旅館業法の対象外となっています(賃貸借の場合は許認可は不要ですが、賃貸借契約の条件等については借地借家法の対象となります)。
「賃貸借」ではなく「旅館業」にあたるのは、判例等によれば、(i)宿泊者が生活の本拠を置いていない(住んでいるとはいえない)場合であって、(ii)宿泊期間が1ヶ月未満の場合とされています。
かかる「賃貸借」と「旅館業」の違いについては、Yahoo!トラベルが2014年4月に開始した軽井沢の高級別荘レンタルサービスを開始1ヶ月で停止したというニュースでも話題になったところです。(運営側は賃貸借であり問題ないとの見解であったが、行政側は賃貸借名義であっても実態として旅館業の問題があるとしたもの。)

Airbnbの場合は通常、①有料で、②ベッド等がある部屋を提供するのが一般的で、かつ上記判例等を前提とすれば「賃貸借」とはいえない(ゲストが生活の本拠を置いている/住んでいるものではなく、期間も1ヶ月未満が通常)と考えられます。
よって①②の要件は通常満たすと考えられます。

ここで③が問題となりますが、「営業」の定義は法令上明確に定められていません。様々な業法に関する判例においては、「反復継続の意思」をもって行われている場合は「営業」にあたるとされており、(i)社会通念上「事業の遂行」とみることができるか、(ii)不特定多数の者を相手に行われているか等を考慮して、「反復継続の意思」があるかを判断するとされています。

(2)「旅館業」にあたる場合の規制
「旅館業」にあたる場合、都道府県知事の許可が必要となりますが、許可の取得に際しては、所定の構造設備基準に従っていることが必要とされています。また、旅館業の運営は、都道府県の条例で定める換気、採光、照明、防湿、清潔等の衛生基準に従う必要があり、宿泊者名簿の作成・フロントの設置等が義務付けられています。
無許可で旅館業を経営した場合には、刑事罰(6月以下の懲役又は3万円以下の罰金)も設けられています。報道によれば、20145月に東京と足立区で住宅を宿泊施設として提供していた英国人男性が逮捕されたという事例も出ているとのことです(もっとも、足立区保健所の10回にわたる行政指導を無視したとの経緯があったとされており、かなり悪質な事案だったといえそうです)。

3. Airbnbにおける旅館業法の適用


a. (会社としての)Airbnb

Airbnbは、規約上、あくまで自社はplatformの提供者に過ぎず、物件を提供するものではないとしています。このことからすれば、Airbnbが自ら旅館業を営んでいるとはいえないと考えられます。もっとも、下記のとおり、ホストが旅館業法違反となるような場合には、違反行為を黙認・助長しているとして問題視される可能性はあるといえます。

b. ホスト
Airbnbのホストについては、上記③「営業」にあたるかが問題となります。
例えば、(a)長期休暇の際に旅行で家をあけることになったので、試しにAirbnbで貸してみようというような場合には、「営業」にあたらないと考えられます。
しかし、(b)Airbnb専用の物件を所有又は借りており、不特定多数のゲストに対して何度も・かつ継続してAirbnbで貸しているような場合には、「反復継続の意思」があり「営業」にあたるとされる可能性はあるといえます。無許可営業で旅館業法違反とされた場合に、実際にどのような処分がなされるかは、政府や都道府県の方針次第ですが、冒頭で紹介したように政府が民泊ビジネスを問題視して実態調査を始めたという報道があることからすれば、今後行政指導が増えて行く可能性もあるかもしれません。最悪の場合には刑事罰という可能性もありますが、上記2014年5月の事例のように、行政指導を何度も無視するような悪質な事例が対象となるのが通常と考えられます。

さらに、上記(a)と(b)の事例の中間にあたるような場合にどうなるかは、現行法上は明確ではありません。例えば、出張等で家を不在にすることが比較的多い人が出張中にAirbnbで貸す場合や、GWや年末年始等の観光シーズンに自宅の1室をAirbnbで貸す場合 等。
余剰リソースの有効活用というシェアリングエコノミーの社会的有用性については以前の投稿でも述べましたが、上記のような場合はまさに典型的な事例といえるかもしれません。ホストとしては空室の有効活用・ゲストとしてはホテル等より安価での宿泊が可能となります。上記事例において、空室のシェアリングエコノミーの実現が可能になるよう、現行法の改正等による明確化が望まれます。
そもそも旅館業法の趣旨は、「旅館業の健全な発達」「利用者の需要の高度化及び多様化に対応したサービスの提供を促進」「公衆衛生及び国民生活の向上に寄与すること」とされています。公衆衛生の観点での必要性はあるとしても、Airbnbのレーティング(ゲストからの評価)等の仕組みでも一定の自然淘汰がなされていくと考えられます。また、「利用者の需要の高度化・多様化に対応したサービスの提供」という意味では、正にAirbnbの仕組みは、ホテル・旅館不足を補い、地元の人の家に泊まってみたい等のゲストの新しいニーズをかなえるものといえます。また、ホテル・旅館に泊まるという体験と、人の家の一室に泊まるという体験とが異質なものであることや、宿泊施設の不足・宿泊料金の高騰が騒がれている現状からすれば、既存のホテル・旅館の過剰な保護は望ましくないという議論もあるかと思います。シェアリングエコノミーという新しい発想に合わせた法規制の整備が必要といえるのではないでしょうか。

4. まとめ
上記のとおり、Airbnbのホストが「反復継続の意思」をもって行っており「営業」にあたるとされる場合には、旅館業の許可を取得することが必要であり、無許可営業の場合は違法とされる可能性があることになります。
もっとも、かかる旅館業法の規制については、東京オリンピック開催に向けて高まる外国人観光客の滞在のニーズに応えるため、政府による規制緩和政策が進められています。
かかる規制緩和の具体的な内容や、賃貸借契約上の取り扱い等について、次回記載したいと思います。

2015年9月13日日曜日

Sharing Economyを揺るがす訴訟 - Employee vs Independent Contractor

1. はじめに
オンデマンド掃除代行サービスのHomejoyが2015.7.31付でサービスをshutdownしたことは記憶に新しい(Homejoy blog)。上記shutdownの一因は、Homejoyのcleanerがemployeeかindependent contractorであるかを巡って提起された訴訟であるとされている。この問題は、余剰リソースを提供する側と顧客とをC to Cでマッチングするsharing economy業界の多くの企業に共通する問題であり、今後の同業界への影響について大きな注目が集まっている。
同様の訴訟は、sharing economy型のサービスを提供する各社に対して提起されている。例えば、Uber・Lyft(ライド・シェア)、Handy(掃除代行)、Try Caviar・Postmates(フードデリバリー)、Instacart(食料品等の買物代行)等。

2. Employeeとindependent contractorの違い、sharing economyとの関係
Employeeとは、企業等に雇用されている従業員をいい、仕事が提供される方法・手段等につき雇用主が管理・指示権限を有する場合には、employeeにあたるとされる。
Independent contractorとは、一般公衆に対して独立して事業・サービス等を提供する者(医者・弁護士・請負人等)をいい、依頼主が仕事の結果についてのみ管理・指示権限を有する(仕事が提供される方法・手段等につき管理・指示権限を有しない)場合はindependent contractorにあたるとされる。
両者の区別は、形式的な契約形態のみではなく、実態に基づいて判断すべきとされる(IRSが公表している主要な考慮要素はこちら)。
Employeeにあたる場合、企業側には時間外・休日労働の割増賃金支払い、職務に関して支出した諸経費の支払い、医療保険の提供等が義務付けられ、企業側のコストは増す。かかる義務が設けられている根拠はemployeeの権利保護にある。Independent contractorは独立して自己の事業・サービス 等を提供する者であり、個々の依頼主と交渉して自己に有利な条件で取引するバーゲニングパワーがあるのに対し、employeeは強者である雇用主との間でかかる交渉力を持たず、法による保護が必要というものである。

Uber、Homejoy等のSharing economyの元来の発想は、ライドや家事等のサービスを受けたい個人と、自己の空き時間や車等の余剰リソースを有する個人とをマッチングし、これらのリソースを有効活用する点にあった。上記元来の発想からすれば、リソースの提供者側は、自分の空いた時間に、サービスのニーズを有する各個人に対して個別にサービスを提供するのであって、むしろindependent contractorに近い発想であったはずである。
しかし、サービスを利用する依頼者の顧客満足度の達成という観点からは、UberやHomejoyを通じて提供されるサービスにつき一定のquality controlを及ぼすことが必要となる。よって各社は、登録時の審査・サービス提供の際のガイドライン・レーティング制度(例えばUberでは一定レーティングを下回ると契約終了が可能)等により、ドライバー /cleaner等に対して一定のcontrolを及ぼそうとした。事業が成長し利用者が増えるにつれ、利用者の安心・安全確保のためのプラットフォーマーとしての責任という観点からも、かかるquality controlの重要性は増したといえる。
他方、プラットフォーマーの力が強くなり、controlが強くなるにつれて、元来の雇用におけるemployee保護と同様の要請が出てくることになる。前述のsharing economy各社に対する訴訟の原告の中には、例えばUberの収入で生計を立てている者もいると考えられ、このような場合にはUberは雇用主と類似の交渉力を有するといえるだろう。
これらの訴訟の今後の展開は、sharing economyの社会的有用性・プラットフォーマーによる一定のquality controlの要請と、リソース提供者側の保護の要請とのバランスをどのように解決するかという問題について、重要な意味を持ってくると考えられる。

なお、上記問題に関して、independent contractorではなく従業員として扱うという対応をしている企業も存在する。フードデリバリーのMunchery、バトラーサービスのAlfred、掃除代行のMyClean等。Employeeとして雇用することによりコストは増えるが、しっかりとしたコントロールを及ぼしサービスの質・顧客満足度を高めるという方針だ。これに対し、independent contractorに過ぎないという立場を貫いた上、訴訟リスクを減らしたいという場合には、コントロールを極力減らすという方針となろう(例えばCraigslistのようなプラットフォーム提供のみの形)。但し、前述のquality controlの要請をどう担保するかは課題となろう。

3. 裁判における判断
これらの訴訟のうち、independent contractorではなくemployeeであるという裁判所の判断が下されたものとして、①Uberに対する2015.6.16付California Labor Commissionによる判断、②FedExに対する2014.8.27付California Ninth Circuit Court of Appealsがある。なお、①についてはUberが控訴、②についてはFedExは2,000人を超えるドライバーからの訴訟につき$228Mで和解したとされている(Forbesの記事)。
両訴訟において、以下のような理由により、Uber/FedExがドライバーによる職務の提供に対してコントロールを及ぼしていると判断された。
①Uber

  • ドライバーが提供しているものは車と労働力に過ぎず、事業に不可欠な知的財産権(アプリ)を提供しているのはUberである。
  • ドライバーの登録に際しては個人情報提出・Uberによるバックグラウンドチェックの完了が必要。
  • 使用する車はUberへの登録が必要。
  • Uberはドライバーのレーティングが4.6 starsを下回れば契約を終了させることができる。

②FedEx

  • ドライバーのユニフォームの指定、車両へのFedExロゴ掲載等の義務付け
  • ドライバーの1日の勤務時間は9.5-11時間となるよう管理
  • FedExがドライバーに対し、配達地域、配達すべき荷物・時期を指定

上記各要素を見る限りでは、類似の訴訟を提起されたsharing economy各社に対しても当てはまる点が多いと思われる(企業側が事業に不可欠なアプリ等を提供している点・登録時に一定の審査を要する点等)。もっとも、①の判断はUberが控訴中であり最終確定したものではなく、また原告の当該ドライバーについてのみ当てはまるものである。今後の裁判では、②FedExとは異なり背景にあるsharing economyの発想(個人が空き時間を利用し、余剰リソースを提供してお金を稼ぐ)も加味した判断がなされることを期待したい。例えばUberで生計を立てているドライバーと、子供が学校に行っている日中の空き時間を活用してHomejoyでお小遣いを稼いでいる主婦とでは、全く同じ基準を用いて判断することは必ずしも必要ないのではないだろうか。


①、②における主要な考慮要素・裁判所の判断の概要は以下のとおり。

考慮要素裁判所の判断(概要)
①Uber
Uberがドライバーへのコントロールを及ぼしているかサービスのニーズがある顧客を獲得し、ドライバーにそのサービスを行わせることにより、Uberは業務のオペレーション全体について必要なコントロールを及ぼしているといえる。
雇用であるとの推定が働き、Uber側にindependent contractorであるとの立証責任がある。
ドライバーが所有する車であることは重要な要素とはならない。
ドライバーの行う仕事が、Uberの通常事業における不可欠な要素であるか否かドライバーの仕事は、Uberの事業に不可欠である。Uberは乗客に運送サービスを提供しており、実際に顧客の運送を行うドライバーなしにはUberの事業は成り立たない。
ドライバーが、Uberと比して、独立したビジネス又はプロフェッショナルサービスを提供しているといえるかドライバーが提供しているものは車と労働力に過ぎない。ドライバーは利益や損失に影響を及ぼすような管理職的なスキルを提供していない。
Uberは事業に不可欠なアプリを提供しており、この知的財産権なしにはドライバーは仕事を提供することはできない。
Uber側の反論:
Uberはドライバーと乗客を結ぶ、中立なテクノロジープラットフォームにすぎない
実態としては、Uberはオペレーションの全ての要素に関与している。
ドライバーとしての登録:
ドライバーはUberに対し、個人の銀行・住居情報、Social Security Number等を提出することが必要であり、Uberのバックグラウンドチェックが完了するまでプラットフォームの利用は不可。
業務に使用するツール:
Uberが管理している。ドライバーは所定基準に従い、車をUberに登録しなければならない。Uberはドライバーのレーティングを監視しており、4.6 starsを下回れば契約を終了させる。
Fees:
Uberがドライバーに支払うサービスフィーにつきドライバーは交渉不可。Uberを呼んだ後キャンセルされた場合、ドライバーはキャンセル料金を保証されていない(Uberがその裁量で顧客とキャンセル料金の交渉を行う)。Uberはドライバーに対し、チップを受け取らないことを奨励。
②FedEx
FedExが、ドライバーへのコントロールを及ぼしているか契約書上は、independent contractorとされているが、契約書上の形式的な整理は重要ではなく、実態に着目すべき。
以下のとおり、FedExはドライバーの職務提供の方法につき多大なコントロールを及ぼしている。
 ①ドライバー・車両の外観ドライバーのユニフォームが規定されており、就業規則等で外観についての詳細な要件あり。
車両について、FedExロゴの掲載・色・サイズ・素材等の詳細な要件あり。
上記基準に満たない場合、マネージャーはドライバーの職務提供を行わせないことができる。
 ②ドライバーの勤務時間ドライバーの勤務時間:
実態としては、ドライバーの勤務日における勤務時間は9.5-11時間と決まっており、これを超える又は下回ることがないようFedExにより管理されている。
 ③ドライバーが荷物を配達する方法・時期FedExが各ドライバーに対し、配達地域を指定、配達すべき荷物・時期を指示。荷物の配達時期等はFedExが直接顧客と交渉する。

4. 終わりに
Sharing economyの社会的意義・ニーズについては言うまでもないが、プラットフォーマーによる一定のquality controlの要請と、リソース提供者側の保護の要請とのバランスという問題が今後どのように解決されていくか、大変興味深い。
各社に対して提起された今後の訴訟の動向についても引き続き要注目である。